運送会社の管理者育成と安全教育を手掛けるプロデキューブ(大阪市北区)。インストラクターを務める溝口朝久氏は、ドライバーとして入社した中堅運送会社での18年間の経験と、趣味で続けているラップの腕前を生かして「安全ラップ」を制作、研修の場などで披露している。

 

同氏はこのほど、日本経済新聞社主催のラップコンテスト「NIKKEI RAP LIVE VOICE 2023」に出場。見事、優勝を果たした。

 

同氏のラップとの出会いは高校生の頃。「独学で始め、ライブなど音楽活動も行っていた。運送会社に就職してからも続けていた」という。

 

研修を担当するインストラクターに転職してからは、「人に何かを伝える仕事」という点にラップとの親和性を見出した。「コロナ禍で対面での研修が少なくなり、『安全教育の日めくり動画カレンダー』に注力することになった際に、自然と『ラップを取り入れてみよう』と思い至った」

 

「ドライバーとしてハンドルを握っていた頃、研修で講師に言われたことを運転に反映させることが難しかった」と振り返る同氏。「少しでも記憶に残りやすい、インパクトのあるフレーズをラップに乗せることを心がけている」という。

 

同コンテストへは、「運送業界のことをもっと知ってほしい」と考え、オリジナルのリリック(歌詞)をつけたラップ曲「TRUCK DRIVER」を引っ提げ、下の名前をもじった「TOMOHI」名義で出場。歌人の俵万智さん、ラッパーの呂布カルマさんら著名な審査員を前に堂々と韻を刻み、応募総数約400人の頂点に立った。思いの丈を熱く伝えたパフォーマンスに俵さんは、「短編映画を見たような感銘を受けた」と絶賛した。

 

「安全にゴールないから地道という道通る」「トラック自体は目立っていても見えない努力は山ほどある」「車庫に戻りエンジンキー抜くまでプロを演じきる」「ゆっくり走って文句言われた(中略)挙句遅れ怒られて胃カメラ飲むほどあの頃ストレスためた」「一人が好きだと選んだ仕事で一人で孤独運んでいた」など、ドライバーの共感を呼ぶフレーズが並ぶ同楽曲。延着時に荷主から言われたという「いつもありがとう」で締めくくられている。

 

この「ありがとう」の言葉には、同氏の熱い思い入れが。「延着したドライバーにこそ、この言葉を掛けてほしい。『遅れて大変だったね』『よく辿り着いたね』『ありがとう』と。このたった一言で救われる」とし、「時間に追われることがなくなれば事故も減らせるはず」とも。

 

「尺がもっとあれば、2024年問題なども盛り込みたかった」と話す溝口氏。業界のため、ドライバーの思いを乗せ、今日もリリックを紡いでいる。

 

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