第十五話.岡野、独立する。

 ……お……終わった……。
 返し切ったぜ、七百万円……。
 真っ白に燃え尽きた俺だったが。

 ――でも。
 俺、ちょっと……凄くね?

 だって、俺まだ二十一歳なんだぜ?
 借金抱えた時ってまだ十八歳だぜ?
 エリートなわけでもなく 中卒だぜ?
 そんな俺が、たった三年で七百万円、稼ぎだしたんだ。
 これって、大分、いや、かなり、凄いんじゃね?

 同い年でさ、二十歳かそこらのヤツで、月給四、五十万円貰ってるヤツ、どれだけいる?
 普通は貰えないよな、そんな額。
 社長に給料上げてくれとか、休みを増やせって交渉してさ、認めさせるヤツ、きっとそうそういないはず。

 凄いだろ? 凄いんだよ。

 沸々と、俺の中に何かがこみ上げてくる。

 俺の夢はなんだ?
 社長になる事だ。

 昔、テキ屋だった頃の事を思い出す。

 『独立させてやる』

  テキ屋の元締めは、俺にそう言ったっけ。
 俺は何て思った?
 独立って事は、いうなれば社長だ。

 そうだ、トラック。トラックだよ。
 自分のトラックがあれば、自分で仕事を取って、自分で運転して運べば、やった分だけ金になる。
 トラックを買うには、また借金をする必要があるが、俺には七百万円を三年で返した実績がある。
  仕事だって、人の二倍働いた実績がある。
  社長相手に交渉する度胸も話術もある。

  独立できる自信も、独立する為の材料も、もうこの手の中にあるじゃないか。

 独立するとなると、大きな運送会社じゃさせては貰えない。
 それなら、小さな会社が良い。

 俺は大手の運送会社を退社すると、すぐに最初に勤めた小さな運送会社へと戻った。

「社長! またお願いします! でも起業したいんで持ち込みでやらせてください!」

 持ち込みとは、自分のトラックを使い、荷物を運ぶ、個人事業主だ。
 つまり、俺個人経営の社長。
 俺が社長だ!

「持ち込みなぁ……。そりゃ良いけど、お前、トラックどうするんだ?」
「中古で買おうかと。車無いですかね?」
「んー。中古で良いんだな? 三百万円で売ってやるよ。一日三万円で仕事やるから独立するか?」

 三百万円か。  少し悩んだが、それで起業出来るなら頑張れる。何せ俺は七百万円稼いだ男だ。
 一日三万円なら、毎日働けば、一年未満で借金は返せる。

 やってやんぜ!

「やります! お願いします!」

 俺は社長から中古でトラックを三百万円で購入。
 埼玉から小田原まで。あっちこっちに荷物を運び、その距離往復で約四百キロ。
 やっと七百万円を払い終えた俺は、また三百万円の借金返済に追われることになる。

 それでも、俺はその日、夢にまで見た起業への第一歩を踏み出したのだった。

 

to be continued…


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