第十八話.岡野、従業員を雇う。

 その日から、俺はそこの仕事を貰えるようになり、収入は増えて行った。

 仕事の内容はスポット便。
 スポット便というのは、ルート配送なんかと違い、決まったルートを走るんじゃなく、突発的な仕事を請け負う仕事だ。
 急に欠員が出たとか、急な配送が必要になったとかの、急ぎの仕事が殆どで、いつ連絡が来るかはわからない。
 すぐに仕事を請け負えるように俺は常に待ち構え、連絡があればすぐに行けるように準備をした。
 仕事が終わったと思っても、連絡が入ればすぐに仕事に向かう。

 体力的にもギリギリだったが、俺は必死に働いた。
 働けば金になる。それを俺は誰よりも知っている。
 全然平気だ。大丈夫。

 そんな無茶苦茶な仕事を続けて半年ほどたったころ。

「・・・・・・なぁ、岡野?」
「はい! 仕事っすか?!」
「・・・・・・や、お前さ? 従業員居るつってたよな?」
「はい! 5人くらいいます!」
「けど来るの、いつもお前だよな? ほんとはお前一人なんじゃねぇの?」
「・・・・・・」

 そりゃそうだ。
 だって従業員なんて居ないんだから。

「ぁー、ハイ。実はそうなんです……」

 腹を括って白状すると、そこの会社の工場長は、呆れたように苦笑した。

「そんな気はしてたよ。でもお前頑張ってくれてるからさ。仕事はやるから従業員増やしたら?」
「・・・・・・うす」

 ――そうだな。
 俺は『会社』を作ったんだ。
 ちゃんと従業員が何人もいる、会社の社長を目指しているんだ。
 大丈夫。今の俺なら、人を雇える。
 雇えるはずだ。

 俺は素直に従業員を雇うことにした。
 初めての求人だ。
 何人か面接をし、俺は従業員を一人雇った。
 六十歳くらいのおじいちゃんだ。

 一人増えたことで、順調に業績が伸びていく。
 トラックは一台から二台になり、従業員も増えていく。
 五台、十台、二十台――。

 やがて仕事も選ぶようになり、俺は野菜を取り扱う仕事をするようになった。
 でも、野菜は運賃が安い上に嵩張る。

 運賃を稼ぐ為、積載量を無視してトラックに積めるだけ積み込むという今では考えられない方法でがんがん荷物を運ぶ。
 過積載のトラックを運転できると言い切るヤツだけを雇って行った。

 四トントラックに十トン積んで集団で走る。
 ぶっちゃけこれを会社と呼んで良いのか。
 会社というより集団だな。

 今でこそあり得ない業務形態だけど、当時はそんなことが当たり前だった。
 そしてそんな無茶ぶりかましながら仕事を続けていたある日。

 荷物を運び、いつもの様に受付で名前を書いていると、受付の女の子が首を傾げた。

「照栄物流さんって、運送会社なのにナンバー白いよね」

 ……ぎく。

「いや~……。ほら、白い方が清潔感あって良いかなと……。ほら、野菜運ぶのに濃い緑より白の方が清潔そうじゃん?」
「えー、何それー」

 やっぱりダメか。
 けらけらと笑い飛ばして貰ったが、いよいよこれはマズイよな。
 緑ナンバーか。緑ナンバーは「営業車」の証だ。
 俺の『照栄物流』が、企業である証明みたいなもんだ。

 ――よし。
 取るぞ! 緑ナンバー!

 

to be continued…


今回も1日更新遅くなりました。ごめんなさい! 
因みに現在は、過積載なんてすると漏れなく行政処分をくらいます。荷主さんにも迷惑をかけてしまうので、絶対マネはしないで下さいね!
次回更新は10/31を予定しています。 お楽しみに!