第十四話.岡野、燃え尽きる。

 テキ屋を辞めた俺は、家族経営の小さな運送会社に就職をした。
 勿論、仕事はトラックドライバー。武器に出来るのは、運転だけだ。
 
 元々テキ屋のおっさん連中から、運転のやり方は教わっていたし、十八歳になるとすぐに免許を取り、トラックであちらこちら、祭りの巡業に回っていた俺だ。

 運転出来るのか?と訝しまれたが、慣れた運転技術を披露すると、社長は驚いていたようだった。

「すごいな! まだ若いのに上手いじゃないか!」

 ドヤッ!

 ガキの頃に散々馬鹿にされた分、褒められるのは、認められたようで嬉しくなる。
 そこからは、水を得た魚のように、ガンガンに働いた。
 目標は、憧れのBMW。
 給食費も払えなかった俺が、高級車を乗り回す。
 それは凄く痛快に思えた。

 就職さえしていれば、ローンが組める。
 流石に新車は無理だが、中古なら頑張れば行ける。
 速攻で車を購入した。
 車検を待つ時間が惜しかったから、車検付きの中古のBMW。
 お値段四百万円。

 当時の給与は月収二十五万円。
 八万円の金利、まぁ、何とかなる。
 
 馬車馬の如く働くこと三ヶ月。


「……嘘だろぉ……」

 エアコンがぶっ壊れた。
 エアコン無しは辛すぎる。
 修理、幾ら掛かるのかなぁ……。高くないと良いなぁ……。
 恐々と修理に出すと、結果、修理代、三十万円。

 吐血しそう。痛恨すぎる。

「お支払は?」

「に……二年で……」

 借金が増えた。
 やべぇ。とりあえず、出来る仕事を片っ端から引き受ける。

「おーい、誰か手空いてたらこれやっといてくれー」
「ハイッ! 俺やります!! やるんで五千円ください!」
「おーい」
「ハイッ! やります!!」

 兎に角働く。働く、働く。
 意地でもローン、返し終えなくては。

 ――と、人が死にもの狂いで頑張ってるって言うのに、車検で六十万円。これまたローンを二年で組む。
 やべぇ。駄目だコレ。

 もっと給与の良い所に移らないと、とてもじゃないが返せない。

 お世話になった会社を退職し、別の運送会社に移る。
 もちろんそこでも馬車馬の如く働く。
 一日十六時間。休みは週に一日だけ。
 そんな俺に追い打ちをかけるように、数か月後、今度はミッションが壊れ、修理費に百万円。更に借金が増えてまっつぁおになりながら、職場を変える。
 
 幸い俺は十六歳から大人に揉まれて生きている。
 普通の十八歳では気づかなかったかもしれないが、自分で金勘定しながら商売をしていたことで、これだけ働いてこれしか給料を貰えないよりもうちょっとくれと言える。
 交渉をすることで、少しでもいい条件で働けるように掛け合う。

「社長! 終わってないヤツ俺行ってくるんで明日休みください!」
「社長! 俺二人分働いてるんで五十万は貰わないと割に合わないけど四十万で良いんでその分土曜日休みにしてください!」

 仕事の量を増やし、一日二十時間働く代わりに、給与Upと週休二日をもぎ取った。
 休まなくては身が持たない。身は持たないが稼がないと借金が増える。

 最終的に四百万円だった車のローンは、修理費と車検で三百万円増え、TOTALで借金なんと七百万円。

 ……いやさ、十八歳が抱える借金じゃ無いでしょうよ。

 金利はゆうに月額二十万円を超えた。

 なんて金の掛かる車なんだ……。もう勘弁してくれよ。

 兎に角借金返済を、と働いて、働いて、働いて、働いて、漸く二十一歳になった時。

 総額七百万円の借金をすべて返し終え――

 そして、俺は、燃え尽きた。

 

to be continued…


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