自動車事故対策機構(NASVA=ナスバ、東京都墨田区)は、平成15年の設立以来、「被害者支援と自動車事故防止を通して、安全・安心・快適な社会作りに貢献する」という使命のもと、自動車事故対策に取り組んでいる。

昨年、同機構福岡主管支所の一員となった佐藤寛明チーフ(写真左)は、「あらゆる乗り物の免許を取得した」という強者だ。現在、九州大学大学院で「煽り運転」に関する研究にも励んでいる佐藤氏に話を聞いた。

同機構では、自動車事故被害者を「支える」、自動車事故を「防ぐ」、自動車事故から「守る」の3つの業務を一体的に実施。運送事業者向けには、運転者を対象に「適性診断」、運行管理者などを対象に「指導講習」、さらに経営者などを対象に「安全マネジメントサービス」を提供している。

佐藤氏は自動車教習所で教員として勤務した経験を活かし、適性診断業務を担当。「前職では、『これから道路に出ていこう』という生徒たちに対して基礎的な教習や試験を行っていた。その経験や知識があるからこそ、いまプロドライバーの皆さんと深く関われている」とやりがいを実感している様子。

「20代のうちに免許をすべて取る!」と周囲に宣言していたという佐藤氏。「教習所で指導するからには信頼が必要だと感じ、働く前に大半の免許を取得した」と振り返る。その後、宣言通り免許証をコンプリート。ほかにも、フォークリフトや船舶、トロリーバスなど、様々な乗り物の免許を取得したという。

「どの車種でも運転できることが自分の強み」と語る同氏。「ほとんどのドライバーさんは、資格を持っていようといなかろうと真剣にこちらの話を聞いてくださる」が、「まれに、なかなか心を開かれない方もいる。その時に、取得した免許や資格のことを伝えると一気に打ち解けられる」と顔をほころばせる。

そんな佐藤氏の働きぶりを上司の鴻巣義史氏も、「熱意があって、何事にも非常に熱心に取り組んでいる」と高く評価。「ずっと運転に携わる仕事に従事してきたことで、ドライバーさんに寄り添うことができている。幅広い知識も相まって、とても重要な戦力になっている」と語る。

「当機構に就いて嬉しかったのが、ドライバーさんたちから『今日あなたと話してよかった』とか『今日から運転が変わりそうな気がする』という言葉をかけていただいたとき」と目を細める佐藤氏。鴻巣氏は、「当機構は適正診断や事故防止だけでなく、事故被害者と家族への支援であったり、自動車の安全性能評価など『交通社会』全体に向き合っている。これからも交通社会をトータルにサポートしていきたい」と語った。

怒りを伴わない煽り運転を研究

2022年からは、九州大学大学院に進学し、「怒りを伴わない煽り運転」に関する研究を行っている佐藤氏。「怒りを伴わずとも車間距離を縮めてしまったり、後続車が車間距離を詰めてきていると感じる状況について、教習所を借り切って実験を行うなど研究を進めている。これはまさに、自分が指導員だったからこそ」と胸を張る。

実験では、軽自動車、セダンタイプの乗用車、ワゴン車と、大きさの異なる3タイプの車両を用い、人間社会における人との距離感(パーソナルスペース)が自動車の乗車中にも存在するか、その距離や傾向、他車に対して無意識にあおり感を与えているかなどを検証。

結果は、「軽自動車よりもワゴン車の方が近づきたくなく、近づかれたくないとも感じていて、実際の距離よりも近くに感じていた」とし、「ワゴン車でこの結果のため、トラックなどの大型車両であればなおのことでは」と指摘。「実験を行って数字で示せば説得力が増す。このような交通心理を事故防止に役立てたい」と意気込む。

◎関連リンク→ 独立行政法人自動車事故対策機構