4月からの時間外労働の上限規制、そして足元のコスト増に備え、運送事業者は目下、標準的運賃の収受を目指すとともに、長時間労働の改善に向け取り組んでいるが、実際の現場では、運賃交渉も労働時間の改善もなかなか進んでいない。「進められない」のが実情だ。そこには、資本力のある大手の存在が見え隠れする。

 

大手路線業者の下請けで幹線輸送を走る運送事業者A社は、大型トラックで甲信越から首都圏への輸送を担っている。荷主である大手路線業者も同社と同じコースを自社車両で運行しているが、大手の車両は荷物の締め切り時間がくると当然のごとく出発する。しかし、下請けA社のトラックは、遅れて入ってくる荷物を待たねばならない。「2、3時間待つこともザラで、時間通りに先発する大手のトラックとは雲泥の差が生じる」という。

 

「下請けのドライバーは長時間労働を余儀なくされる一方で、大手のドライバーは規定通りの労働時間が守られている」のだという。「自分のところは守れるが下請けが守れないのは当たり前という考え」で、「これはほんの一例」だとA社社長は指摘する。

 

運賃交渉でも大手の存在が影響しているという。「我々のような中小が荷主に交渉しに行くのを、大手は手ぐすね引いて待っている」とこぼす首都圏の運送事業者。同社の荷主には、同社と同じ運賃で走っている大手運送事業者が入っているが、「大手は運賃を上げるそぶりを一切見せないどころか、一部で値を下げて仕事を受けている」という。

 

「赤字部門があっても、全体で黒字であれば経営は成り立つという考えで、大手は赤字覚悟で仕事を奪いに来る。周囲で同業者が何社も仕事を奪われているのを目の当たりにしており、安易に運賃交渉もできない」と現状を吐露する。

 

「業界あげて、長時間労働の改善と標準的運賃の収受を目指す中にあって、果たしてこれでいいのか。すべて自由競争で片づけていいものだろうか」と同運送事業者は疑問を呈する。