日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長の上西一美です。運転者が交通事故を起こすと、皆さんは事故報告書を書かせると思います。そして、事情を聴き、ドライブレコーダーの映像があれば、それを見て指導していく、これが通常の流れではないでしょうか? しかし、私がタクシー会社の社長時代は少し変わった指導を行っていました。

結論から言うと「指導をしない」ということです。まず報告書を書かせ、そして、ドライブレコーダー映像を一緒に見る、これは皆さんと同じだと思います。しかし、ここでは指導は行いません。

次にやってもらうことは、本人に自分の事故映像を見た感想を書いてもらいます。通常、運転者は、自分の目に見えたものでしか状況を分かっていません。

例えば、右折時に右後方の巻き込み確認をすると、当たり前ですが左前方はまったく見ていないことになります。まったく見ていない間、仮に左側から自転車が接近して接触すると、運転者は、「自分はしっかり安全運転しているはず、だから、相手の自転車が猛スピードでいきなり渡ってきたに違いない」、こう考えて、「マナーの悪い自転車が当たってきた」などという勘違いを起こすのです。

これが運転者から見た主観的な事実です。しかし、ドライブレコーダー映像は、前方を常時記録しています。よって、これは客観的な事実であり、ドライブレコーダー映像こそ真実なのです。

運転者は、ドライブレコーダー映像を見る前は主観的な事故報告を書きますが、事故映像を見た後は、自身の事故を客観的に観て感想を書きます。「自転車が飛び出してきたと思っていたが、自分の安全確認不足です」と、事実を受け入れていくのです。

この「客観的に観る」ということが大切なのです。客観的に事故映像を見ると、自発的に納得し、自身の中で勝手に再発防止策を考えます。そこで、ひと言、指導ではなく、アドバイスしてあげるのです。「再発防止策を完璧にできるようになるために、今日から何をする?」、これで、事故後の面談は終了です。

人は納得して初めて行動を変えます。その納得は、自分自身で行うほど強いものはありません。他人から指導されたり、説得や時には説教をされても、人は行動を変えることはほぼありません。

このような方法で、私は余計なトラブルもなく、短時間でアドバイスを終えていましたので、ぜひ、試してみて下さい。