他の産業と比較して労働時間が長く、低賃金であるトラックドライバーは担い手不足が深刻化している。この課題は、労働条件を改善することで解決できるはずだが、荷主・元請事業者の理解と協力がなければ難しい。実際に、荷待ち時間の削減や適正運賃の収受などの取り組みは道半ばの状況で、迫る2024年問題を前に、強力な対応が必要となっていた。

 

そんな中、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」において取りまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき、国交省は7月21日、適正な取引を阻害する疑いのある荷主・元請事業者への監視を強化するため「トラックGメン」を創設。

 

「トラックGメン」の正式名称は「トラック荷主特別対策室」で、小熊弘明自動車局貨物課長が室長を務め、国交省職員162人体制で、本省及び地方運輸局、地方支局等に設置。トラック事業者への情報収取や荷主・元請事業者への監視等の業務を遂行する。

 

発足に係る辞令交付式で、鶴田浩久自動車局長は「本日、国交省に『トラック荷主特別対策室』を設置し、全国162人のトラックGメンに対し、斉藤国土交通大臣から辞令が発令。ドライバーの労働条件の改善と取引環境の適正化に、各位の奮闘を期待する」と訓示を述べた。

小熊室長は「荷主側の事情による長時間の荷待ちの削減や、ドライバーの賃金の原資となる運賃水準の適正化等を実現するため、『トラックGメン』が一丸となって、その職責を果たすことをお誓い申し上げる」と決意表明を行った。

 

国交省ではこれまでも、貨物自動車運送事業法に基づく荷主などへの「働きかけ」「要請」などによる是正措置を講じてきたが、依然として荷主等に起因する長時間の荷待ちや、運賃・料金等の不当な据え置きなどが解消されずにいた。

 

「トラックGメン」の業務は、トラック事業者へのプッシュ型の情報収集を開始し、情報収集力を強化するとともに、貨物自動車運送事業法に基づく荷主企業・元請事業者への「働きかけ」「要請」「勧告・公表」制度の執行力を強化すること。

 

「トラックGメン」の創設について、全ト協の坂本克己会長は「物流は生活や経済を持続的に発展させるための血液だが、トラックドライバーの労働条件を改善することで、必要な時に、必要な場所に、しっかりとした血管を通さなければならない」「そのためには、トラックドライバーの労働条件を改善しなければならない。発足した『トラックGメン』が力になってくれる。これまで、このようなことがなかったので、そういう意味で今日は歴史的な日になった」と期待を述べた。

 

このように、トラックGメンに期待する声があがる一方で、トラック事業者の中には、「通報窓口に匿名でも対応してくれるのか」「荷主に情報元がわかると、その事業者は結果的に仕事を失うことになる可能性があるが、そうなったらどうするのか」などの声も。

 

ほかにも「運送会社が荷主だと、なかなかものが言えない」「多層構造もあって、荷主といっても色々あるので、それぞれに対応が難しい」「Gメンというからには、荷主に潜入してもらうくらいでなければ良くならない」などの不安の声も上がっている。

 

こうした不安の声に対して、国交省では「通報窓口は匿名でも対応することはできる。トラック事業者の不安はよくわかっているが、匿名でできることには限界があるので、そこは勇気を出して欲しい。ただ、匿名だから何もしないということはない」

 

「働きかけ制度はステップアップして、要請、勧告・公表という形になるので、改善が見られないということであれば最終的には勧告・公表という形で対応する。さらに、これからは全国で働きかけが行われる」と、執行力の強化についても言及している。

 

国交省が本気で取り組む「トラックGメン」は大いに期待が持たれるが、事業者の意見も採り入れ、不安を解消することで、大きな成果が得られることが望まれている。

 

◎関連リンク→ 国土交通省「トラックGメン」の創設について