高速道路の通行料金にスーパーのタイムサービスじみた割引を採用したのが、そもそも間違いだったのか。

大型車で重量物を扱う西日本の運送経営者(60代)は「割安な設定の夜間電力が脱原発でダメになったのと同じ。深夜割引のために高速SAで待機するドライバーを犠牲に、安いトラック運賃は成り立ってきた」と指摘する。国交省とネクスコ3社が1月20日に発表した高速道路の深夜割引の見直し(2024年度中を予定)。パブリックコメントが用意されるか不明だが、運送現場からは「この制度は愚の骨頂だ」との憤りが日増しに強くなっている。

■誰が儲かる

数百台のトラックで地場から長距離まで手掛ける中堅会社の社長(60代)は「専用アンテナの設置には莫大なカネがいる。どこの製品を使い、だれを儲けさせようというのか」と辛辣だ。深夜帯(午後10時~翌朝5時)に走った分だけを割り引く新しい割引には、その距離を正確に把握するための相当数の専用アンテナが高速本線に必要となる。

 

国内を走る高速道路の総延長は2020年3月末時点で9231.7km(国交省データ)。「世界的な半導体不足でアンテナの設置時期が見通せない事情を説明する前に、一体いくつのアンテナが必要で、そのカネをどこから引っ張るのか聞きたい」とまくし立てる。

 

「そんな大掛かりではなく、道路会社のソフトをいじれば明日からSAはガラすきになる」と長距離の幹線輸送を手掛ける事業者(50代)。「24時間いつ乗り・降りしても正規料金であれば、だれも時間つぶしなどやらない。ただ、利用量で割引率に差をつける必要はあるから、それは従来の大口・多頻度割引のパーセントを引き上げれば済む」との考えを示すが、似た意見はトラック業界に多い。

 

■巻添え怖い

一方、生活雑貨を運ぶ会社の社長(40代)は「(新しい深夜割引は)もう決まったのか?」と尋ねる。「東京行きのトラックは積み込みが終われば高速で目的地の近くまで走るが、新しい割引の対象はドライバーがSAで寝ている時間帯。いまの運行だとほとんど割引は受けられなくなる」と訴える。

「ドライバーを見下している。人間は夜に寝るのが基本なのに『その時間帯に働けば安くしてやる』といわれているのと同じ。人が目覚める前に、企業が活動を始めるまでに準備を整えるのが物流の仕事。バカにするなといいたい」と断じるのは地方ト協の幹部も務める運送会社の社長(60代)。「働き方改革というならドライバーも、運送会社も夜に眠れるようにすべき」と続ける。

 

「時短で徐々に長距離をやめ、深夜に高速を走る仕事はほとんどなくなった」と、アパレルや精密部品を扱う運送経営者(40代)。ただ、「ヨンサンマルがあるから『目いっぱいで6時間半』という無茶な走り方をするドライバーがいるなら巻き添えの事故が怖い。長距離は高齢ドライバーが多いから、なおさらだ」と危惧する。

 

■業界の声を

2014年3月末で「早朝・夜間」「通勤」が廃止され、時間帯割引は「平日朝夕」「休日」「深夜」になった。実施を控えた同年2月14日からの14日間にわたってパブコメが行われ、HPアクセスは9497件、1071人から延べ2466の意見が寄せられたが、道路6社と日本高速道路保有・債務返済機構が示した「新たな高速道路料金案」は変わらなかった。15日後の3月14日に内容が公表され、翌4月に新割引が始まった。

 

今回の見直しは物流の実態を見ないまま進む感がぬぐえないが、「そもそも法的にやらないといけないものではなく、現時点では未定」(国交省・道路局高速道路課)とパブコメさえ用意されない可能性もある。行政機関が政・省令などを定める際に事前に広く意見を募り、内容を考慮することで行政運営の公正さ、透明性を高めるのがパブコメの趣旨だが、その機会が与えられないのであれば業界関係者しか知り得ない〝ドライバーの日常〟をシミュレーションしてほしい。そしてもう一つ、深夜割引の対象が深夜割増賃金の労働時間と重なる危うさも見過ごせない。