郊外の民家わきに、毎日のように止められている緑ナンバーのトラック。プレート表記の地名からは、このエリアに事業所を構える運送会社の車両ではないことがわかる。この見慣れた光景は、昔から後を絶たない「ドライバーによるトラックの持ち帰り」かもしれないが、正しく管理すれば「ダメな根拠はなくなる」(運輸行政の担当官)ため、頭ごなしに違法と決めつけることもできない。

働き方改革が求める時短にお手上げ状態のトラック業界にとって、運行管理を厳格化することで営業マンのように「直帰・直行」が可能なら、それがドライバーの拘束時間の削りシロとなるだろうか。

 

■ダメといえない

 

実は、この問題は10年ほど前にも取り上げたことがある。長距離と地場仕事の2つのパターンで〝苦肉の策〟をひねり出した2つのトラック事業者の様子と、それを行政当局がどう評価するか…そんな内容だった。双方の社長が思い付いたのは、国交省の「ドライバーが所属営業所を出発してから帰着するまでの1運行は144時間(6日間)が限度」という規定を〝柔軟〟に解釈したもの。

 

当時、取材に応じた行政担当官は「要は運行実態で判断する。例えば運行が何時間で、自宅でどれだけ休み、営業所に何時間いたかなど個別に見ないと判断できない」と説明。そのうえで「監査に入った際に車両の持ち帰り(無認可車庫)や、改善基準の問題で処分対象になった例もある。ただ、改善に向けた悩みを無下に扱うことはない」として、行政窓口で具体的に相談するように促していた。

 

相当の時間が流れたが、あのころと比べものにならないほどトラック運送経営のかじ取りは困難になった。その代表格が「働きたい人が、なぜ思うだけ働けないのか」という声が現場から絶えない労働時間の問題。そこで、あらためて「ドライバーを自宅からトラックで出発させることは可能か」という〝過去問〟と向き合ってみた。

 

地場配送から中・長距離輸送など運行スタイルはいろいろとあるが、結論からいえばトラックを持ち帰る行為は「いいとはいえないが、ダメという法的な根拠もない」(地方局の担当官)と行政の回答は現在も同じだった。要は、ドライバーがその日の仕事を終えて休む場所が、トラックステーションなのかSAか、それとも自宅なのか…というだけの違い。休息地点が近ければ、所属事業所に戻って対面点呼を受けなければならないという距離的な制限はなく、求められるのは「所属事業所を出発してから6日(144時間)以内に戻ること」

 

■〝働き方〟の改革が必要

もっとも、こうした〝柔軟さ〟を活用しようとすれば、その間の休息ポイントを自宅に指定した運行指示書などを確実に作成し、周辺にトラックを駐車できるスペースも必要。コンビニなど商業施設の駐車場は認められない。そのうえで「144時間以内に営業所へ戻り、そこで8時間以上の休息期間を挟んで1運行を切らないと違法になる」と前出の担当官は重ねて説明する。

 

ただ、「そうやって法をすり抜けようとする事業者がいるから、さらに大きな網をかぶせることになる」(地方局の幹部)という行政の本音もある。その通りかもしれないが、渋滞や事故などのトラブルで予定通りの時間に業務を終えることができないなど、トラック運送の仕事では「帰りたくても帰れない」という状況が起きる。そうしたなかで、少しでも長くドライバーの休息期間を確保したいと考えた結果の〝柔軟〟かつ、確実な運行管理をサポートするIT機器が現在はそろっている。

 

かつて大手タクシー会社のオーナーが〝自宅車庫〟を提唱し、その理由を「自宅にいる時間が短いのは家庭不和のもと」と話したことが記憶にある。実現はしなかったが、ドライバーの安全運転にも通じる話。今回の〝過去問〟も似たようなもので、後ろめたい行為を続けるのではなく、正規の手続きに沿って堂々とドライバーを自宅で休ませる――という現場の工夫の一つ。さすがに6日間というのは極端な例としても、高速道路をフル活用するなど時短対策の選択肢が限られるトラックドライバーだからこそ、その特性を踏まえた〝働き方〟の改革が必要と痛感する。