トラック運送経営の視点は今後、どこに置くのがいいのだろうか。燃料など必要資材の価格高騰、持続的に活躍できる人材の確保、そして、それらを賄うための運賃・料金の収受…。解決すべき課題が互いに関係しあうためにどこから始めるか手をこまぬくうちに山積し、あるいは着手はしていても弾き返される。長距離運送などで聞かれる「走るほどに赤字」の言葉に代表されるように、拠り所にできるはずの日々の業務遂行が逆に経営の首絞め役になりかねない状況すらある。積み重ねた経緯がまちまちなためにひと括りにはできないが、「ヒトと価格」の観点から今の状況を描いてみた。

 

「50年間、長距離運送をやってきた。それをガラッと変える」。神戸市内のトラック運送事業者は今春から、大型トラックでの長距離輸送から順次、地場・中距離輸送へと切り替えていく。乗務員の残業時間に上限が設けられる2年後を意識した取り組みだ。

 

もっとも、切り替えの一番の要因は「軽油価格の高止まりで、走るほどに赤字」が目に余るようになってきたからだ。この会社で今生じている問題が、「ドライバーの心のつなぎとめをどうするか」という点だという。

運行の切り替えによって赤字は解消できたとしても、運賃収入が目減りした分、乗務員の手取りは減らさざるを得なくなる。そうした状況を嫌って、すでに離職を申し出ている乗務員もいるという。

 

同社管理者は、「離職する乗務員の後継が問題になっている」と話す。後継の乗務員を募集しても、応募者がないのだ。
「『それなら給与を上げればいい』という社内の人間もいるが、勤続数十年の人と入社して間もない人とで給与が同じ、または逆転することもありえる。そのときにはまた、離職者が出ることが目に見えている」

 

乗務員の心をどうつなぎとめるか。軽油価格の高騰が同社50年の経緯に転換を促す。促されはするものの、心をつなぎとめる材料の賃金という価格がネックになっている。

 

 

運賃や燃料サーチャージの引き上げによって業態転換をしないという選択肢はないのか。

 

管理者は、「何度も交渉はしているが、孫請け状態の今の仕事では運賃引き上げは無理なことがよく分かった。乗務員の心と荷主の心、両方をつなぎとめるから難しいんだ」

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運賃・料金の引き上げができず、業態転換という難解な袋小路に入り込んでいる事業者は多い。公正取引委員会は1月26日、労務費、原材料費、エネルギーコスト上昇分を転嫁できるよう、下請法上の「買いたたき」の事例を追加する事務総長通達を出した。転嫁できない理由を発注者側が書面やメールなどで回答しないで従来価格に据え置くと下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあるなどと明確化した。「分配」政策を強調する岸田政権の政策「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化会議」に調和する内容だ。

 

しかし、「下請法上の要件に合致しているかや、下請側から情報提供することにためらいを感じる」という事業者は依然として多い。