【新春特別号】③
今回では、2022年のスタートにあたり新春特別号として、「2024年問題を考える」というテーマで説明してまいります(その3)。

1.引っ越し会社S社を巡る報道について
昨年11月頃、引っ越し会社S社に関し、「基本給8万円、時間外労働120時間、パワハラの横行」といったニュースがありました。私は同社の実際の給与制度の内容や報道されている事案の内容に関しては承知していないが、報道内容が運送業の直面する「2024年問題」に関わると考え、所感を記載させていただきます。

⑴基本給「8万円」について
基本給8万円とあたかも「ブラック企業」を印象とする記載がありましたが、基本給8万円は違法でしょうか?基本給8万円を諸手当(家族・通勤・皆勤以外)と合算する、あるいは出来高歩合給と組み合わせて「最低賃金」以上であれば違法ではありません。

出来高と組み合わせる場合、(月所定170時間、残業120時間)として、基本給8万円、成果給(出来高)17万であれば、(8万円÷170時間)+(17万円÷290時間)=1056円となります。

ただし、基本給額が低いことは求人上の問題などがありますので一定水準以上にすべきです。また、ニュースでは労基法27条に抵触するというコメントがありましたが、同条は出来高制の場合の6割保障を定めたものであり、基本給を総額の6割とする主旨ではありません。

基本給水準をどう設定するか、「2024年問題」への対策として重要な判断事項です。

⑵残業「120時間」について
残業120時間に関しては、長時間労働ですが、引っ越し需要が季節的に集中する繁忙期の可能性があります。引越業は移動時間に運転者以外のスタッフは「仮眠」や「食事」を取ることが多く、現場での待ち時間(作業指定時間までの自由利用時間)も発生します。この「仮眠」「食事」や自由時間が労働時間に当たるかの線引きは難しく、残業120時間の中に含まれている可能性があります。このことは運送業「2024年問題」にも関係する課題です。

なお、現時点では、改善基準告示の年拘束時間3516時間の枠内で年6回までは月拘束時間を320時間まで延長することが可能であり、繁忙月に320時間から月休憩23時間を差し引き、総労働時間297時間、時間外労働127時間を実施することは可能です(ただし、1日拘束時間基準違反などになる恐れがあります)。現時点において残業120時間は健康障害を懸念する必要がありますが、未払いがなく、36協定特別条項の枠内であれば違法ではありませんが、2024年4月からは法違反を問われることとなります。

⑶「パワハラ」について
「パワハラの横行」とった記載もありますが、現場業務においてハラスメントと指導の線引きは難しく検証が必要です。パワハラは行ってはならない行為ですが、お客様へのサービス向上のため部下やスタッフに対し、しっかりと指導を行うことは必要です。この事案で若手社員が労働条件に声をあげたこと自体は意義のあることで、会社側も真摯に対応することが求められます。告発は「(自殺などの)重大な事態を防ぐ問題提起」であったと評価できます。なお、「パワハラ」は2022年4月から遵守義務となります。

2.2022年はタイムリミット
新年にあたり「2024年問題」を3号シリーズで解説しました。2022年は今後の法改正に対し、社内の改革を進めて行くタイムリミットとなります。改正内容を理解し「給与改定」を進めて行く必要があります。