【労務トラブル実事例編】⑦

「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウイルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。

今回も前回に続き、運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」とその対応策について説明してまいります。

1.労務トラブル実事例
⑴トラブル内容
千葉県の運送会社A社に3年間勤務していたドライバ―B(46歳)はおしゃべり好きでいつも社員を笑わせる明るい性格であった。その日もいつものように出社し、大きな声で挨拶して昨日のプロ野球について話をし、出庫していった。夕方、配送先のセンター所長からA社に、「センター内でBが意識を失い、ハンドルに頭を乗せてぐったりとしており、動いていないので救急車を呼ぶ」との連絡が入った。

A社社長は急いで病院に向かったが、B氏は「急性心筋梗塞で死亡」という事であった。

A社社長は突然の事に大変驚いたが、荷主、代替要員手配、遺族への連絡・お詫び・葬儀費用の負担(任意)を行うなど対応に注力した。B氏は母と姉の3人暮らしでB氏の収入で生計を維持している状況であった。B氏の遺族(母、姉)も突然の事に大変ショックを受けたが、葬儀などに関してA社がサポートしてくれた事には感謝している様子であった。

葬儀後2週間程が過ぎた日、B氏の遺族から「勤怠データを見せてほしい」という連絡があった。A社社長が「なぜ必要なのか」を尋ねても答えようとしないが、「知り合いに相談したところ、労災ではないかとアドバイスを受けた」との事であった。

B氏は月80~90時間程残業をしていたが、A社では休憩時間の把握が不十分であった。

A社は「業務災害補償保険」には未加入であった。

⑵事例のポイント
本事例では、Bドライバ―が配送途中で「心筋梗塞」を発症し、不幸なことに亡くなってしまった事案でのA社の対応方法がテーマです。

現状、一定の残業時間数がある場合に脳・心臓疾患を発症した場合、労災認定を出すケースが増加しており、運輸・交通業は業種別で最も認定を受けている業種になっています。

労災認定を受けた場合、政府労災においてでも一定額の給付を受ける事は出来ますが、遺族が民事損害賠償を提訴した場合、1億円を超える高額な判決も出ているため注意が必要です。

まずは、遺族や被害者のご家族に対し、「誠意を持って対応する」事が非常に大切です。本事例のように会社の現場ドライバーのケースでは、初動及び葬儀や葬儀後についても遺族に礼を尽くすことが大切です。

2.対応策
不幸にも亡くなってしまった社員への補償については「業務災害補償保険」への加入が必須です。「業務災害補償保険」は政府労災と民事損害賠償との差額を埋める保険です。

また、労働時間は「拘束時間」から「休憩時間」を控除した時間です。本事例のような労災認定事案についても「休憩時間」の把握が重要なポイントとなります。

会社が責任を負うべき労働時間に至っているかいないかに関しても、会社として主張ができるよう精度の高い「労働時間数」の把握が求められます。