「限られた時間内に、少しでも距離を稼ごうと考えるのは当たり前。そんな危ない話ではないのか」と、食品や精密部品を運ぶ岡山県のトラック経営者。国交省とネクスコ3社が1月20日に同時発表した「高速道路の深夜割引の見直し」(2024年度中を予定)が、働き方改革に向けて時短に取り組むトラック事業者の新たな懸念となった。

ドライバーの労働環境を改善するためにトラック業界も「深夜割引の拡充」を要望してきたが、このままでは中型運転免許が創設されたときと同じように「現場の声が中途半端に伝わった」という印象を残しそうだ。

 

 

■歩合に影響

 

現在は午前0時から同4時の間に、一瞬でも高速道路上にいれば全区間に深夜割引が適用される。見直しによって「割引適用の時間帯が午後10時~午前5時に広がるのは助かるが、その時間帯に走った分だけが3割引ならSAで休んでいる暇はない…と考えるドライバーも出る」と話すのは冒頭の社長。同社ドライバーの給料は基本給(最低賃金)に、運賃から高速料金(実費)を引いた金額に大型は32%、4トン以下は40%で計算した歩合を足す形。同様の賃金体系を敷くトラック事業者は少なくない。

 

「労働時間を縮めるには高速道路の利用が必須で、運賃と別に高速代をもらう交渉をしているが進展しない」と明かすのは、中距離までの運行が大半という資材関係を扱う兵庫県のトラック事業者。

 

同社は以前、トラック1台ごとに高速使用の上限(月間売り上げの6%)を決め、節約分がドライバーの収入になる仕組みを採っていたが、手取りを増やしたいドライバーが一般道で事故を起こしたことで「会社が長時間労働を黙認」と指摘された。「高速代を払わない荷主や、元請けこそが黙認ではないのか」と憤る。

 

■本線に大群

 

働き方改革の実現に向けてトラック事業の周辺で改正作業が重なる。「適用時間帯に走った分だけ3割引」「適用時間帯を午後10時から午前5時に拡大」「400km超の長距離逓減を拡充」という今回の見直しも「トラック運転者の負担軽減」が目的とされるが、「最近は遠くて静岡辺りまで。30分の休憩を挟みつつ約400kmを走り切ろうとすれば、スピードリミッターの付いた大型トラックが今度はSAではなく本線にあふれる」と、生鮮食品などを運ぶ岡山県の運送社長は危惧する。

 

先の見直し発表では「深夜割引の時間帯に一定以上の距離を走ったうえで総距離が1000km以上になる場合、1000kmを超えた分も深夜割引の対象に加算」「午後10時台に高速道路を出た場合は割引率を2割に縮小」という激変緩和措置も示された。しかし、東京ICを軸に考えれば本州最西端の下関ICからでさえ1000kmに至らず、「1割でも安くなるなら」と午後11時までSAで時間を潰すドライバーが存在することも容易に想像できる。

 

■半端な理解

 

全ト協は次年度の道路関係要望にも「深夜割引の拡充」を掲げており、そのうち対象時間の拡大は今回の見直しに反映された。ただ、合わせて求めていた現行30%の割引率を50%に拡大するという部分は弾かれた格好で、中国地方の業界団体幹部は「我々が望んだのは現行の割引率で対象時間が広がることだっただけに残念」と話す。

 

「4トン車に4トンの荷物を積みたい…と、かつて我々が求めた架装減トン問題は普通免許で乗れる4トン車の話だった。中型免許ができて4トンが積めても、高速代が大型扱いなら意味がない」と、2.5トンほどしか積めない4トン冷凍車が主力の兵庫県の事業者。「今回の見直しもそうだが、トラック業界の要望は十分に理解されずに先へ進む」と吐露する。

 

国交省は、高速と並行する一般道周辺の環境改善が深夜割引の本来の目的とし、経費を抑えたいトラック事業者とは温度差がある。ただ、「『トラックは終日▲割引』みたいな感じだとSAで無駄な待機や、時間調整の車両がインター手前で滞留することもない」(雑貨を運ぶ長崎ナンバーの大型ドライバー=山陽道下り・吉備SA)、「一般道を走らせないのが狙いなら(車限令で)なぜトレーラを締め出すのか」(姫路市の低床トレーラ運転者)という現場の声にも耳を傾けたい。