【労務トラブル実事例編】⑥

「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウイルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。

今回も前回に続き、運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」とその対応策について説明してまいります。

1.労務トラブル実事例
⑴トラブル内容
千葉県の運送会社A社に勤務するドライバーBはドライバーCの紹介で入社したが、度々無断欠勤するため他のドライバーの迷惑となっていた。同社では5つの配送ラインを6人の交替シフトで対応するため、1人の欠勤が他のドライバーの勤務シフトに影響してしまう状況であった。先輩であるCはBを呼び出し、「無断欠勤なんてとんでもないぞ。紹介者である俺の顔を潰す気か」と少し厳しめに指導し、「このままではこの会社で働けなくなる」と改善を迫ったところ、Bは出社しなくなってしまった。

数日後、労基署から呼び出しがあり、「ドライバーBからパワハラによる労働災害の請求があった」と告げられた。Bの残業時間は半年間・月平均90時間程でBの労災請求書には「長時間労働を強要されたほか、紹介者Cさんなどに度重なるパワハラを受け、うつ病になった」と記載されていた。

Bの労働時間は長いが、指導を無視して洗車に2時間かけていること、出庫時刻を守らず、早く出庫することなどの影響が大きいようである。

所長はA社経営陣に経緯を報告・協議の上、「A社としては労働災害ではないという主張をする」という方針を固め、監督署と協議をしていく方針となった。

⑵事例のポイント
本事例では、シフト勤務制で運行する現場での無断欠勤を契機とする業務指導の是非および他者から「洗車など」に時間をかけすぎるドライバーの「労災認定」などが問題となっています。「労災認定」について会社としては否認しています。会社として「労働災害とは認めない」という主張が可能である点はポイントの1つです。

Bさんは、他のドライバーは20分程度で実施する洗車に2時間かけ、出庫時刻も会社の指定時刻を順守しないなどが原因で長時間運行になっていることなどを労基署がどう判断するか注目されます。

2.対応策
労基署へは標準的なドライバーの「洗車時間」や同じ運行ルートの他ドライバーの「出庫時間」データを提出し、折衝中です。

問題社員への対応はどこの会社でも苦労していますが、業務指導がパワハラとならないように「言葉使いに気を付ける」(録音されている場合がある)、「威圧的にならない・手を出さない」(暴力は絶対にNG)、「複数名で対応する」(反論できるようにする)といった対応に留意する必要があります。

本件のような事案を端緒とした労基署への対応などについては精神的負担も大きいので可能な限り避けたいと思います。「勤務改善指導書」を活用し、正当な業務指導については毅然と実施していくことが必要です。