第十九話.岡野、事務所を建てる。

 ちょっと話がさかのぼるが、元々、俺一人でやっていた時は、住んでいるアパートが ある意味事業所で、トラックは近くの何もないだだっ広い空地のような駐車場を借りて、そこにトラックを止めておけば良かったんだが、従業員を雇うとなると、当然俺の住んでいるアパートを事業所にするのには無理があった。

 それに、アパートからトラックを止めている駐車場までは少し距離がある。
 事業所を作るなら、事業所の敷地内にトラックを止めたい。

 てなわけで、事業所となる物件を借りようと探したんだが、そんな物件は馬鹿みたいに高い。
 トラック数台置ける敷地のある事務所なんて、二十歳超えたばかりの若造が借りれるほど安いわけが無かった。

 ん――。どうするかな。
 トラックを置ける広い事務所か。
 今止めてる駐車場はめっちゃ広いんだから、ここに事務所さえあれば最高なのに。
 ――と思ったところで、閃いた。

 ……いや、待てよ?

 俺はトラックを止めている駐車場を眺めた。
 THE 田舎!な雰囲気満載の景観。遠くにぽつぽつと家やアパートのある、のどかな風景。
 だだっ広い空き地にとめられたトラック。

 ――ありじゃね?

 これさ。トラック1台分の駐車スペース借りて、そこに事務所作れば良くないか?
 何もがっつりした事務所である必要はないんだ。
 俺のトラックを止めているスペースの駐車場代は約一万円。
 十トントラック一台分の事務所なら十分広いし、プレハブならそれほど高くないんじゃないか?

 駐車場のある事務所じゃなく、駐車場に事務所を建てる。
 これだ!!

 早速大家に交渉。

「すみません! 駐車場もう1台分借りるんで、そこにプレハブ置いてもいいっすか?」
「プレハブ? んーー、まぁ、良いよ」

――っしゃ!!

 早速業者を呼んで、プレハブを置いてもらう。

 最初に雇った従業員のじぃさんの面接は、丁度このプレハブを設置する日だった。
 クレーンで設置されるプレハブを、トラックの中でじぃさんの面接をしながらわくわくと眺める。

「見てよ、丁度今日事務所出来るんだよ、あれが事務所ね!」

 じぃさん ――ヤマダさんは、ニコニコと笑って頷いていたが、今考えると大分無茶ぶりだったな。
 初の面接がトラックの中なんて、そうそうないだろう。

 こうして、事務所を設置して、そこからトラックを増やし、従業員も増えていき、そして、緑ナンバーをとることを決意し、今ここ。
 幸い、緑ナンバーを取る為に必要な事業所は既にある。

 とはいえ、緑ナンバーをとるには、会社じゃないとやりずらい。
 基本は法人で緑ナンバーを取るのが普通だ。
 緑ナンバーを取る為には法人にならねば!

 ――が。
 この緑ナンバーの取得が、思いの外難航することを、この時の俺は知る由もなかった。

 

to be continued…


大変長らくお待たせいたしました!
やっとこ運送業界の風雲児!岡野照彦列伝、再開です。

次回もお楽しみに!