第六話.岡野、裁縫セットに唖然とする

 小学校高学年になったある日、例の如く学校からカラー印刷がされたプリントが配られた。

 ――またこれだよ。

 そこに書かれていたのは裁縫セット購入のお知らせ。

 高ぇわ。
 買えねぇつってんじゃんよ。
 要らねぇんだよ。

 げんなりしながら、家に戻って姉に報告。

「あー、裁縫セットね、はいはいはい。何回も使うものじゃないし、針と糸さえあればOKだよOK。よし、買いに行くよ!」

 経験者は強い。
 プリントはそのままゴミ箱に投げ込まれ、俺は姉に連れられて、家の近くの手芸用品店へ向かった。
 この手芸用品店は、かなり大きくてちょっとしたデパートみたいになっている店だ。
 今だったら、即100円均一に向かうところだが、当時はそんな便利な店はまだ無かった。

 慣れた足取りでさくさく進む姉についていき、針とミシン用の糸を買ってもらう。

 そして家に戻ると、姉がアルミの弁当箱に、買ってきた針と糸と練習用の布を入れ、ドヤ顔で差し出してきた。

「ほら、テル。これでバッチリ!」
「・・・・・・うわぁ・・・・・・」

 弁当箱には、くっそダサい野球のイラストが入っていた。

 ――姉よ。なぜこのチョイスにしたのか。
 てか、どこから出てきたんだこの弁当箱。

 無地でいいじゃん、無地で。何ならタッパーでもいいじゃん。
 何故野球のイラスト。

 うわー、嫌だ―。持っていきたくねぇー。
 マジでねぇちゃん何してくれてるんだ。

 心の中で姉に毒づいてみたりはしていたが、それでも、どうのこうの、こういった『何とかできる』ものは、大抵姉が何とかしてくれた。  

 知恵を凝らし、工夫を凝らし、嫌なことは笑い飛ばし、俺たちは世間の投げつけてくる『当たり前』と戦いながら子供時代を過ごしてきた。

* * *

 ――今思うと、本当にろくでもない幼少期で、小学校時代だったと思う。

 悔しい思いも、惨めな思いも、何度もした。
 負け組のまま、終わらない。俺は絶対にここから抜け出してやる。
 いつかこんな生活を抜け出して、億万長者になるんだと夢を描いた。

 当時のその、『悔しさをバネに苦境の中をあの手この手で乗り越えた経験』は、今も俺の中にどっしりと根を張って、逆境を乗り越える力となっている。

 でも、当時の俺は、変えたいという強い想いはあれど、何をどうすれば変えられるのか、その答えを見つけられずにいた。

to be continued…


ご閲覧有難うございます! 
長く苦しい小学校時代はここまでです。
次回から岡野の転機となる中学校編に入ります!
次回更新は5/15を予定しています。 お楽しみに!