第五話.岡野、エアリコーダーに絶望する

 小学校では、定期的に、授業で必要なものを購入するためのチラシが配られる。
 書道セットや裁縫セット等だ。
 『義務』で教育を受けているのに、別途数回しか使わない道具の購入を強いられる。
 生活費もままならないのに、そんな金があるわけがない。
 セットを買わなくても大丈夫だが、授業では必ず使うものだ。

 書道の道具や裁縫セットはまだ何とかなる。
 書道なら墨汁と筆さえあれば授業は受けられる。
 裁縫セットも糸と針と布さえあれば受けられる。

 だが、どうにもならないものがあった。
 音楽の教材だ。

 鍵盤ハーモニカやリコーダー。意味が分からん。
 しかもこの音楽の授業、定期的にテストと称して皆の前で発表させられるのだ。

 もちろん音楽家を目指したり、音楽が好きな人には必要な授業だろう。
 だが、卒業後に鍵盤ハーモニカやリコーダーを使う人が一体どれだけいるというのか。
 鍵盤ハーモニカやリコーダーが出来なくて困るヤツが一体何人いるんだ?

 まず、第一の難関の鍵盤ハーモニカは誰かの残していった鍵盤ハーモニカを譲ってもらえた。
 が、この鍵盤ハーモニカ、どこぞの歌のように『壊れて出ない音がある』鍵盤ハーモニカだった。

『プープー、(プスープスー)、パーパー、(プスー)』

 これが結構恥ずかしい。
 それを前に出て発表するのが嫌で仕方がなかった。
 音の出ない鍵盤ハーモニカにまた笑われる。
 それでもまだ、あるだけマシだった。

 それ以上に悲惨だったのがリコーダーだ。

 リコーダーは、誰かに譲ってもらうことも出来ず、もちろん購入もしていない俺はリコーダーを持っていなかった。
 そしてリコーダーの授業がはじまる。

 結果。

「なんだ? 岡野、リコーダー無いのか? 仕方がないな。リコーダーを吹く真似をしとけ」

 ――はい?

 まさかのエア・リコーダーを命じられた。

 いやもう意味がわからん。
 吹く真似でリコーダーが吹けるようになるとでも?
 あってるか間違ってるのかさえわからんのだが。

 クスクス失笑の漏れる中、しぶしぶ俺は授業中、リコーダーを吹く真似をする。
 そしてこれも、皆の前で披露させられるのだ。

 リコーダーを吹く真似をしながら、口で音を出す。

「ピーピー、プープー、パーパー、ポー」

 ……まぁ、笑われるんだよな。判ってた。

 リコーダーの授業っていつまであるんだ?
 授業の度に胃がキリキリして、早くリコーダーの授業が終わるのを指折り数えるようになった。

 今でも俺の中で音楽の授業とリコーダーは、嫌な思い出として刻まれている。

to be continued…


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切ない小学校時代は後ちょっとです。もう少しだけお付き合いください(´;ω;`)
次回更新は5/1を予定しています。 お楽しみに!