日本国内のEC市場規模は拡大し続けている。経産省が昨年7月に発表した「令和元年度内外一体の経済成長戦略にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、スマートフォン経由のEC市場は約10兆円規模に拡大。新型コロナウイルス感染症の影響もあって拡大し続けている。そして、多くのEC事業者が事業を展開していく上で課題となってくるのが物流である。

 

Taste Local 物流拠点の自社倉庫設置

生活様式の変化や緊急事態宣言などにより、食品を扱うEC事業者も増えている。2020年4月に地域のホテル・旅館・飲食店の高級グルメを取り扱うECサイト「TASTE LOCAL」をオープンしたTaste Local(篠塚孝哉社長、東京都渋谷区)。

それぞれの物語が詰まっている地域のごちそう。そんな「とっておきのごちそう」のみをセレクトしたオンラインストアでは現在、1980円から2万円弱まで約400品の商品を取り扱う。

同社では、1400円から4700円までの価格の商品がよく売れているが、20年のサービス開始以来、出品元からの冷蔵・冷凍での個別配送を伴っていたため、 一度の購入につき配送料が1200円から1500円ほどの高額になるケースがあり、利用者からも「商品の価格と比べて輸送料が高く感じる」という声が出ていた。

さらに、複数の出品元から購入する際には、それぞれの出品元から発送されるため配送料が2重、3重にかかってしまうことも課題だった。そのため、5月に関東圏内に物流拠点となる自社倉庫を設置。これにより、配送料軽減を実現するほか、複数の商品をまとめて発送できるようになることで、利用者の負担となっていた配送料の課題が改善できると期待している。

「TASTE LOCAL」事業責任者の篠原諒氏は「オープン以来、輸送量が一番のネックだと考えていた。たまたま、拠点として使えそうな物件があったので、物流拠点として開設した」とし、「物流に関しては、アイデアベースでいろいろ取り組んでいるが、今後、事業を拡大していくためには、物流は物流会社に委託していかなければならない」と考えている。

「物流を委託するにしても、固定費だと厳しいので完全成果報酬のような形のコスト構造で対応してくれる物流会社だとありがたい」とし、「当社にあった物流を一緒に考え、提案してくれる物流会社に委託することができれば」としている。

同社の様に、物流や物流会社のことをほとんど知らないというEC事業者は少なくない。だが、彼らが事業を展開する上で、物流は切り離して考えることができない問題である。

全研本社 自社の強みを明確に

集客・マーケティング戦略情報に特化したWebメディア「キャククル」を運営する全研本社(林順之亮社長、東京都新宿区)は5月13日、「物流委託先選びに関するアンケート調査」(有効回答:ECに取り組んでいる小売・卸売業で物流委託を経験、もしくは検討している企業担当者109人)の結果を発表した。

それによると、Webでの物流委託先選びの課題として、46.8%のEC事業者が「コスト感がわからない」、38.5%が「自社サービスに合うのか分かりづらい」、34.9%が「Web上では委託先を選ぶ決定打が見つからない」と回答した。

バリューイノベーション事業部の三宅大地マネジャーは「当社には、様々な業種の集客支援、広報戦略、マーケティングのノウハウを提供するメディアとして『キャククル』がある。Web上でいかに自社の強みや他社との違いをしっかり明確に伝えられるかが顧客獲得の鍵を握る」という。

つまり、物流会社がWeb上で会社を宣伝しても、EC事業者の多くが物流や物流会社の知識が無いため、委託先を選べずにいるという。キャククル責任者の角倉庸介氏(同左)は「EC事業者の多くが物流に関してわからない、自分で調べているが、調べても違いが判らないので業者も選べない。結果として、とりあえず片っ端から問い合わせて、わかりやすい価格で選ぶしかない状況」だという。

物流事業者は、価格で選ばれないためにも、「いろんなことができるという宣伝だけでは、利用する側が何に強いのか結局わからない」とし、「質で選ばれるためには、何でもできるというよりは、何かに特化しているという方がわかりやすい」としている。

物流事業者の多くが、マーケティングに苦戦している状況だと考えられる。業界では当たり前の事だと思っている事や提供しているサービスであっても、EC事業者など、いわゆるお客さんの多くが、そもそも物流の知識が豊富にあるわけではない。

角倉氏は「Web上で委託する物流会社のHPを見ても価格以外に違いがわからないとするEC事業者は多い」とし、「どんなに品質が高くて凄いサービスを提供することができても、その部分の価値で評価してもらえなければ、結局は価格勝負になってしまう」と話す。

「当社が介入したある物流代行業者では、HPに何ができるかという項目はあったものの、どの分野に強く、依頼後にどういった効果があるのかが伝わりづらいものだった」とし、「そこで、その物流代行業者の得意領域である通販系の特定ジャンルに表現を絞り、事例も交えて、強みを理解してもらえるような内容にしたところ、契約が増えた」という。