コロナウイルス感染拡大に伴い日本の完全失業率は、2021年2月で2.9%と依然として高い(総務省統計局発表)。慢性的な人手不足に陥っている運送業界では、より良い人材確保が出来るチャンスと思われているが、高い失業率であってもトラック運送業界には人材がなかなか集まりにくく、雇い入れた人材の試用期間でトラブルも多く発生しているようだ。

近畿圏内の運送A社では「人材不足から、ある機関を通じて紹介してもらった。入社して1週間は先輩ドライバーの横乗りで仕事を覚えるように指導し、その後、1週間が経過したことで、独り立ちさせた。大型免許などは保有していて乗務経験もあるのだが、常に注意散漫で、確認不足から接触事故や荷物の落下など、たった1か月の間に数件の事故を起こした。さらに、車庫に保管していた納車3日目の新車にバックで接触し、高額な修理費用を発生させるなどしたことから、本人を呼び出して退職を促した。しかし、本人から『継続して雇用してほしい』とお願いされ、その粘りに負けて、もう少し様子を見て結論を出そうと考えたが、それからも軽微な事故を頻繁に起こしていて、配車担当者も配送させるのが怖いとまで言い始めている。再び本人に自主退職を促すものの雇用の継続を懇願されており、どうすればいいのか困っている」と話す。

また、別の運送B社でも「他業界の営業所の所長を務めていた人物がドライバーの紹介で入社してきた。受け答えやあいさつなどもしっかりしていたため即採用し、車に乗り慣れていないことから2週間は横乗りを行った。その後、2週間ほどは無事故であったことから独り立ちさせることになったが、1か月余りの間に3回も事故を起こしたため、本人に始末書と、始末書が5枚になったら退職するという覚書を交わした。それから事故は減少したため、その後も継続雇用している。本来なら解雇予告して解雇すれば良かったのだが、簡単に解雇すればトラブルになる恐れもあるので、試用期間での解雇は行いにくい」と話す。

大阪労働局に話を聞くと「法律上」の試用期間は14日間で、それを超えれば、解雇30日前に予告通知することが必要で、即日解雇などになれば30日分の給与分を支払って辞めてもらうことになり、10日前なら10日分の給与、20日前なら20日分の給与の支払いが義務付けられているという。「企業独自の試用期間を定めていても、法律上では14日を超えた場合は解雇となる」と説明した。

労務問題に詳しい社会保険労務士は「試用期間の解雇でトラブルになるケースは多い。法律では14日を超えて退職させる場合には、30日前なら予告通知しておく必要があり、即日解雇の場合には30日分の賃金の支払いが必要。経営者の中には自社が定めた試用期間中なので即日解雇でも賃金支払いはしなくていいと思い込んでいる人もいて、退社した社員が労働基準監督署や弁護士事務所、労働組合などに駆け込んで不当解雇などにつながるケースもある」と説明。

試用期間を14日以上設けたいと考える会社については、「トラブルを避けるため、有期雇用という形で3か月間だけの雇用として契約を結び、その後、無期雇用に切り替えることもできる。ただし、こういったやり方は雇い止めという批判も多い。労働者の中にはこういった形を嫌ったりするケースもあるが、法律では問題はない」。

また、「会社の規則に違反したり事故を起こせば始末書を提出させて、『始末書が何枚になれば退職する』という覚書を交わすことも労働者とのトラブル回避につながるため、雇用人材との間で取り決めることが大事」だという。

同社労士によれば「試用期間についての誤解からトラブルに発展するケースも多い。防衛的な形での試用期間を設け、自社に適切な人材なのかを見極めてもらいたい」という。