時間外労働に罰則付きの上限規制が適用される来年4月まで1年を切った。業界では、長時間労働の改善に向けた取り組みが行われているが、「荷主の理解が必要で自助努力だけでは難しい」や、「これまでの商慣習を変えるのは困難」ということで、なかなか進んでいないのが実情だ。特に長距離輸送においては、取り組みが難しく、対応の遅れが指摘されている。こうした中、労働時間削減に効果的だとされる「中継輸送」に注目が集まっている。労働負担の軽減や担い手の拡大につながるとして、国も後押しをするこの取り組みを行う事業者を取材した。

 

食品輸送を手掛ける井ノ瀬運送(井ノ瀬広和社長、埼玉県熊谷市)では、3月下旬から、グループである中部ロジ(同社長、愛知県春日井市)と協力して中継輸送を開始している。

 

井ノ瀬運送の神山健常務によると、中継輸送は、2024年問題を見据えて取り組みを開始したという。

 

同社ではこれまで、東京―大阪間の輸送は自社で行っていた。しかし、昨年6月にグループである中部ロジの新城マザーセンターが竣工し、春日井市にある同センターを中継拠点とすることで、中継輸送が可能になると判断、準備を進めていた。

 

今年3月に井ノ瀬運送、中部ロジともにトラック2台ずつ、計4台を用意し、中継輸送を開始した。

 

井ノ瀬運送は関東から関西へアイスクリームを輸送する業務において、まずは中継拠点である春日井市の新城マザーセンターへ輸送する。一方、中部ロジはパン生地を大阪から関東へ輸送する業務において、大阪からまずは同センターへ輸送する。

 

同センターで合流した双方のドライバーが車両を乗り換えて輸送を継続する。井ノ瀬運送のドライバーは、関東―同センター間を、一方の中部ロジのドライバーは、関西―同センター間をそれぞれ往復するという業務になる。

 

同常務によると、関東から同センターへは約5時間、関西から同センターへは約3・5時間で行けるという。
これまで宿泊が当たり前だったドライバーは毎日、自宅に帰ることができるようになった。さらに、荷物の積み込みや積み下ろし作業がなくなり、大幅な負担軽減につながっているという。

 

だが、課題がないわけではない。1法人での取り組みならば問題はないが、法人同士でのやり取りとなると、運賃をどうするか、事故を起こした場合はどう処理するかなど、細かな取り決めが必要になる。運賃に関しては現在、走行距離に応じた分配を行っているというが、同社でもまだまだ試行段階だという。

ただ、今後、顧客の理解を得ることが大前提としながらも、ドライバーの負担軽減の観点から、中継輸送を拡大していくことを視野に入れて取り組んでいくとしている。

 

 

長距離をドライバーが分担してこなす中継輸送。ドライバーの負担軽減につながることは確実といえるが、まだまだ課題も少なくない。今後、業界に根付いていくのかどうかは未知数といえよう。

◎関連リンク→ 株式会社井ノ瀬運送