〝底辺の仕事〟と職種を名指しにした就活情報サイトの記事が波紋を広げたが、その7位にトラックドライバーが記されていた。一方、身内であるはずのトラック業界団体も「全産業の平均より労働時間が2割長く、賃金は2割安い」と外向けの発信を続ける。ドライバーの労働環境や生活水準を改善することが真意であるとしても、結果として、入職希望者を遠ざけてしまいそうだ。

そもそも「全産業平均と比べる必要があるのか」という思いもあるが、業界団体が口をそろえる〝2割〟の数字は何を根拠に、そして本当に職種の実体を映しているのか…そんなことも考える。

同記事では、底辺職と呼ばれる仕事が「社会を下から支え、そんな人がいるから現在の自分がある」と、落としつつフォローするように表現され、SNSで批判が殺到。底辺職という表現自体が許されるものではないと同時に、大規模災害など緊急時に「国民生活に欠かせないライフライン」、コロナ禍で「エッセンシャルワーカー」と位置付けられつつも、待遇や職業的地位が上がらないのは、残念ながら事実だ。

トラック運送業界の各種会合で、かなりの確率で主催者代表のあいさつに盛り込まれる冒頭の〝2割〟説。全ト協が発刊している「日本のトラック輸送産業~現状と課題2021」でも「トラックドライバーの年間所得額は全産業平均と比較して大型トラックで約7%低く、中小型で約14%低い」と記され、それでいて労働時間は「大型で432時間(月36時間)、中小型で384時間(同32時間)長い」と厳しい現状が示される。これらの数字は厚生労働省の賃金構造基本統計調査が根拠だ。

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各社各様で勤務実態が把握しづらいトラック運送だけに、どう数字を弾き出すのか厚労省に尋ねてみると「産業大分類で16大産業に属する事業者は全国に160万~170万あり、それを都道府県別、産業別、事業規模(労働者数)別にグループ分けしたうえで毎年、所定内給与額が誤差率5%未満の精度で求められる標本設計理論に基づいて約8万事業者を抽出する」(政策統括官付・賃金福祉統計室の担当者)と説明。同調査で労働時間も把握しているという。

8万を47都道府県で割り、さらに産業中分類に属する80事業(道路貨物運送)で割り、それを8つに区分した規模別で割ると…。そう単純な設計ではないらしいが「5~9人」「10~29人」といった規模別の8区分まで割っていくと、各グループから選ばれるのは都道府県ごとに3社前後の計算。産業別で事業者数に多少があり、「抽出対象の道路貨物運送事業者は全国で4万9029」(同担当者)という大所帯の業界だけに、調査事業者は実際にはもっと多い可能性もあるが、「特定につながるため、どれだけの事業者が今年の調査で対象になるかは教えられない」(同)という。
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中国自動車道の加西SA(兵庫県加西市)で休んでいた大型車に乗る50代の男性は「4時間走ったら30分間休まないといけない規則は、自分らトラックドライバーにとっては『その間は動くな』と国に命令されているようなもの」とぶちまける。

会社の時間管理は厳しくなったが、「この仕事は職場の難しい人間関係がなく、気楽が一番。昔みたいに稼げないが、そう思って続けているドライバーは多いのではないか」と話す男性の給料は「手取りで30万円くらい」と、全産業の平均(令和3年調査=男33万7200円、女25万3600円)と比べて見劣りはしない。

厚労省による難しそうな調査のことは理解不足のままだが、そうした作業手順で弾き出された数字が独り歩きすることで、業種・職種の印象に少なからぬ影響を与える実感はある。

仕事内容や働くスタイルには、会社ごとに明らかな違いがある。それなのに、業界全体として「働く時間は長く、給料は安い」と身内が発信するのはいかがなものだろうか。「それが真実」かもしれないが、「ストレスフリーは全業種・職種でトップクラス」というのも事実だ。

全体で7万8474事業者が対象となった昨年の回答率は72%。同調査票は毎年7月ごろ、その年の対象となる事業者の手元に届くという。