地球温暖化で、日本でも2010年以降の日本の夏の気温は災害レベルであり、状況により常に死亡レベルにある。そうした状況のなか、炎天下で車内に居る場合、アイドリングストップを行うことの問題について考えてみた。

炎天下でエンジンを切った車内がどのような状況になるのか、その場に居る人間に対してどのような影響を及ぼすのだろうか。

炎天下でのアイドリングストップについて、ある運送会社の経営者は「荷主から荷待ち時のアイドリングストップを強制されており、指示に従わない場合は取引してもらえなくなる」と、不満を表している。

このような対応を求められている運送会社は少なくないが、荷主側にもこのような対応を求めざるを得ない事情がある。企業として環境問題への対策は欠かすことができない取り組みであり、アイドリングストップはその一つであるからだ。

つまり、会社として環境問題への取り組みを徹底するあまり、「炎天下でエンジンを切らせる」という、結果的に、「人の健康や命より環境問題を重視する」形になっているのではないだろうか。

 

 

 

JAFが実験「エンジン切った車内は昼4時間で40度以上に」

炎天下でエンジンを切った車内がどれほど人間にとって危険であるか、『教えて!「かくれ脱水」委員会』の委員長で、兵庫医科大学特別招聘教授、JAFの常任委員(兵庫県)も務めている服部益治医師に話を聞いた。

 

服部氏は「JAFが実施した実験では、8月の晴天で外気温35度の状況下において、昼12時から午後4時の4時間、車内温度を測定した。窓を閉め切った車両では、エンジンを停止させてわずか30分後の昼12時30分頃には車内温度が約45度を記録した」という。

「その後も上昇を続け、午後3時頃に55度を超えた。車両の窓をそれぞれ3cm程度開けた状態の車両では、30分後の車内温度は約40度、同3時の時点では約45度と若干の低下がみられたが、それでも車内に留まるには厳しい車内温度であることが分かった」としている。

なお、「車内温度が40度を超えると脳が活動しなくなり、判断力が無くなってしまうため、人は何もできないまま死亡することになる」と注意を促す。

「炎天下でアイドリングストップをした車内に留まるということは、『死』を意味するといっても過言ではない」とし、「エンジンを切るなら、車を降りて涼しい所で待機する以外に良い方法はない」と話している。

 

荷待ち時のアイドリングストップ問題について、荷主に適切な対応を行うことを周知できないか、厚労省に確認したところ、「荷主に対して運送会社の熱中症対策およびアイドリングストップ防止を呼びかけるものはない」とし、国交省も同様に、荷待ち時間の短縮を求める方向の対策以外、確認できていない。

また、炎天下でのアイドリングストップで死亡事故や健康被害の発生がみられることから、「ホワイト」な労働環境の実現を目的に掲げる「ホワイト物流推進運動」に「炎天下でのアイドリングストップはさせない」という項目が追加される可能性はあるのか確認したところ、国交省貨物課では、「『ホワイト物流』への推奨項目に『安全の確保』とあり、トラックドライバーを含め事業活動に必要な安全の確保が大変重要と認識している」とし、「今後の状況も踏まえ、安全確保のために見直しを含めて検討していく」としている。

 

香川総合法律事務所 香川代表弁護士 「カスハラに当たる可能性も」

 

アイドリングストップが原因で死亡事故が起きた場合の責任の所在について、香川総合法律事務所(東京都)の香川希理代表弁護士は「炎天下で、荷主がアイドリングストップを強要するのは、カスタマーハラスメントにあたる可能性が高い」と話している。

また、「同ケースでは、アイドリングストップと車内待機を命じた運送会社の安全配慮義務違反や荷主の不法行為責任が問われ、死亡時には被害者遺族からの損害賠償請求を受ける可能性がある」という。

「損害賠償請求された場合には、荷主や運送会社に数千万円から億を超える請求があってもおかしくはない」とし、「使用者および荷主または元請企業は、ドライバーが健康上好ましくない環境に置かれるような指示をせず、人道的な扱いを心掛けなければならない」としている。

 

「環境」より命守るべき

 

「炎天下で、アイドリングストップで2時間待機させられた」――。

トラックドライバー情報サイト「ブルル」が224名を対象に行ったアンケート調査では、記録的な猛暑の今夏(7、8月)、62%・139人ものドライバーが待機中のアイドリングストップを指示されたことがあると回答。「窓を開けていても40度を軽く超える」など、現場からは悲痛な叫びが聞こえてきた。

「荷物ができるまでアイドリングストップを指示された。近隣からの苦情対策だとか。出荷先の事情がドライバーに全て降りかかってくる」と嘆くドライバー。他にも、「コンビニの大型枠で休憩していたら『近隣住民からクレームが入るので、エンジンカットするか移動して』と言われた」というドライバーも。

気象庁の検討会が「異常」との見解を示した今年の猛暑だが、飲食店の店主が「真夏の車内でローストビーフが作れる」という動画を公開し話題に。あるドライバーはそれに絡め、「車内でローストビーフができるくらい厳しい気温なのに、『アイドリングストップを』というヤツは運転席に10分閉じ込めておきたい」と語気を強める。

なかには、「『エンジン切れ』と言われた場合は、言ってきたヤツを助手席に15分くらい乗せる」と言い切る強者も。実際に乗せたこともあるそうで、「数分ですぐ逃げていった」と苦笑するが、「環境より自分の命を守るべき」と語る。

一方、「今のメインの積み先はアイドリング禁止だったが、コロナ禍を機にドライバーみんなで交渉して可になった」というケースも。「待合室にみんなで固まると密になるので、車内待機させてくれと交渉した」という。

このように荷主と建設的な交渉ができれば良いが、現実的にはなかなか難しいところ。「エンジンを止めろというなら止めるが、倒れたら給料保証と治療費をいただきます」と強気に出るドライバーもいたが、顧客とトラブルに発展する可能性がないとは言い切れない。

今回のアンケートでは、エンジンカットの待機で「2時間」と答えたドライバーが多かったが、中には「3時間」も。「車載扇風機とベストに付いている扇風機を使ったり、車外の日陰に行ったりして何とかしのいだ」という。

 

増えるバッテリー式クーラーの導入企業

アイドリングストップ支援機器としてト協も助成する車載バッテリー式冷房装置はドライバーに人気だ。

いすゞA&S(旧アイ・シー・エル)の大型ハイルーフ向けアイドリングストップクーラー「i―Cool Hi」の21年度の販売台数は416台で、前年比142%を記録している。

増加の理由について同社担当者は、「過去に採用いただき、新車導入時に装着されるリピートユーザーが増えている」と説明。

また、「夏場の荷待ち時のアイドリングストップ問題に加え、ドライバー確保を意識し、従業員満足度向上を目指される経営者が増えている」とし、「燃料高騰下での燃費向上商品としても採用いただいている」という。

ドライバーからは、「休憩や睡眠時に快適に過ごせ、体調管理ができる」「タイマー機能でバッテリー上がりを気にせず睡眠がとれる」など好評で、「夏場はもちろん、雨期時の除湿機能も役立つ」など高く評価されているとのこと。

同社では、「労働環境改善や燃費削減など現状の課題に対して、少しでも顧客の役に立てるよう今後もニーズに見合う商品を提案していく」としている。