第226回:令和時代の運送業経営 労務トラブル実例編(21)
【労務トラブル実事例編】㉑
「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウイルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。
今回も前号に続き運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」とその対応策について説明してまいります。
1.労務トラブル実事例
(1)トラブル内容
東京都所在の運送会社A社(社員数60人)は主としてスーパーマーケットの店舗間配送を行う運送会社であった。3年前に創業者が急死し、妻(62歳)が急遽社長となり息子(専務・大型ドライバー、35歳)と奥さん(33歳)の3人で経営を行っていた。
ある日、最近入社したドライバーB(40歳)から「歩合給の計算根拠を教えて欲しい」との問い合わせがあった。同社の給与は、先代が「経験と勘」で定めた総額から最低賃金基準の基本給、無事故手当、余りが「歩合給」という計算方式であり、「歩合給は残業代です」という説明を入社時に説明していた。
総額の決め方については先代が使用していたメモがあり、「運賃、燃料代、経験、店舗件数、作業量(手積等)等」の要素で決めていたが、具体的な計算方法は書面になっていないためブラックボックスとなっていた。
先代は非常に面倒見がよく親分肌で、ドライバーが結婚したり子供が生まれたりすると、「特別手当」を数万円支給することもあり、このやり方で社長とドライバーのバランスが保たれていたため、労務に関するトラブルはほとんど発生していなかった。
先代の急死により急遽経営を引き継ぐこととなった妻・社長であるが、パソコンが苦手で現状でも電卓を使い手書きで給与計算を行っており、いつもドライバーからの給与に関する質問にどう回答していいか悩んでいた。息子も計数管理が苦手で大型ドライバーが同業他社からの引き抜きで急遽退職したこともあり、ほぼ毎日ハンドルを握る必要がありドライバー対応がなかなか出来ない。また、事務員である娘は経理の業務が初めてで自分の親世代のドライバーを相手に給与の説明が出来ないという状況であった。
ドライバー自身は給与の額面と手取りしか見ていないタイプのドライバーで、給与の各項目にはあまり関心を持っていなかったが、ドライバーBの奥さんは給与明細の各項目毎の金額の根拠を知りたがっており、何度か会社に電話がかかってきたこともある。
先代が残した意味不明の計算式メモを元に出来るだけ変動がないようにしていたが、最近新しく入ってくるドライバーは事情も分からずにいろいろと質問をしてくることが多く、「金額を説明できないなんてありえない。他の会社へ移ることを考える」といった発言も出てきていて苦慮している。
(2)事例のポイント
先代に先立たれてやむなく経営を生き継いでいる女性経営者は少なくありません。ドライバーの給与計算に手間取ることも多いようです。ドライバーが不足している状況では、「辞められては困る」という事情から消極的な対応を取らざるを得ません。
2.対応策
経営者が変更した場合、計算方法に不明点が多い場合や実情に合っていない場合は、給与の改定を検討した方がいいでしょう。給与はドライバーの生活のための大切な労働条件ですので、支払う会社側が説明できないという状況になると不信感が募り離職につながります。2024年問題を契機として給与の変更を進めるタイミングになっています。
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