燃料高騰や長時間労働の改善など、相次ぐコストアップ要因に運送経営は圧迫されており、疲弊する企業体力と先行きの不透明な現状に、不安を口にする経営者は少なくない。

コストアップへの対応には適正運賃の収受しか手はなく、価格交渉は待ったなしの状況。「標準的運賃」を掲げ、業界をあげて取り組みも進めている。

しかし、強気の姿勢が裏目に出て、結果的に契約を解除されるというケースも出ている。

首都圏の運送事業者は、これまで長年にわたり取引してきた荷主から契約解除という厳しい通告を受けた。その荷主は、同社の売り上げの2割を占める、まさに最重要顧客でもあった。

「これまで厳しいときはどちらかが融通を図るなど、持ちつ持たれつの関係を築いてきた。パートナーシップを構築していたはずだった」が、コロナ禍で取り巻く環境が激変し、関係を維持するのが難しくなっていたという。そこに、燃料高騰が追い打ちをかけた。

荷主も厳しい経営環境下で我慢を強いられている状況で、運賃値下げを同社へ要求。「荷主が厳しいのは分かるが、運賃を下げれば、これまでのようなサービスは確実にできなくなる」と、輸送品質の維持を理由に値下げ要請に首を縦に振らずに強気の姿勢を維持してきた。「ドライバーの労働環境を守らねばならない」という理由もあった。

荷主との取引は続けていたが、少しぎくしゃくしてきた時期に同社が荷物事故を発生させてしまう。「傭車との連係ミスから、荷主への報告が遅れるという最悪の事態を招いてしまった」。

後日、社長自ら荷主を訪問し、ひたすら謝ったが、担当者の怒りは収まらなかった。「運賃値下げに応じないのは輸送品質を維持するためだと言いながら、この事故はいったいどう説明するのか」という詰問に、同社長は返す言葉がなかったという。

 

「完全にうちの責任で、起こしてはいけないミスだった」と話す同社長は、粘り強く交渉したものの、契約解除を求める荷主を翻意させることはできなかったという。

労働環境を守ろうと懸命に適正運賃の収受に努め、強気の姿勢で臨んでいたが、一つのミスで、売り上げの2割を失うという大きな痛手を被ってしまった。

「運賃値下げに応じなかった当社は、荷主にとって煙たい存在になっていたのかもしれない」と話す同社長は、「絶対大丈夫だと安心できる輸送品質を構築できない限り、強気の運賃交渉は難しい」と語る。

輸送品質を高めるには、労働環境の改善が不可避で、それには適正運賃の収受がこれまた不可避となる。同社長は、「我々、中小零細にとって、適正運賃の収受はとてつもなく難しいことなのかもしれない」とこぼしている。