2022年4月から中小企業も、労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」の対象となった。職場での様々なハラスメントを広く防止するため制定された同法。今年2月25日には、厚生労働省から「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」も公表されている。

近年、認知されているカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」は、人手不足問題とも相まって、物流を含む多種多様な業界へ深刻なダメージを与えている。マニュアルは様々な産業でのこうした状況の改善を目指したものだという。

内田裕之弁護士は「カスハラは物流業界にとっても他人事ではない。配送先も含め、接する人数に比例してカスハラのリスクは増加していく。特に宅配は多い印象がある」としている。

さらに、「企業には安全配慮義務がある。カスハラへの不十分な対応や従業員のうつをはじめとしたメンタルヘルス不調が義務違反と認められる可能性もある。2月に発表されたばかりのマニュアルは注目度も高い。顧客だけではなく株主も注目傾向にあるので、自社なりの回答を出せるよう熟読と対策を」と語る。

 

「自社が協力会社などへ業務を委託したケースにおいても、現場でカスハラと認められるトラブルが発生した場合、使用者責任を問われる可能性がある。たとえ個人事業主などへ業務委託していた場合でも、指揮監督下にあったと見なされれば、使用者へ責任が問われるリスクが発生する。トラブルが起こる前にカスハラに対して明確な基準と対策を提示することをオススメしたい」としている。

香川総合法律事務所(同中央区)の香川希理代表は、「厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルはあくまで一般的な内容を総論的に記載したもの。業界ごと、企業ごとに対応したマニュアルを作成する必要がある」とし、さらに「物流業界は、他の業界に比べても、カスハラ及び人手不足が深刻化している業界とされており、カスハラマニュアル作成の必要性は高い。マニュアル作成にあたっては、会社の規模や取引内容などを踏まえたうえで、カスタマーハラスメントの判断基準や相談対応体制などについても独自に設定することが重要となる」と指摘している。

同氏は自社独自のマニュアル作成方法について、「担当者にヒアリングを実施し当該企業の過去のカスハラ事例を分析したうえで、よくある事例への対処法を盛り込むなど、実際に現場で使える内容へと改良を重ねていく」とし、「カスハラマニュアルを策定することで、企業が従業員を守るという安心感が従業員に育まれ、従業員の離職率低下、ひいては人手不足対策にもつながる。ぜひ、カスハラマニュアルの策定を」と話す。