大型トラックの冷凍機の音でトラブルになる話は以前から聞かれるが、働き方改革に沿って時短を進めるために高速道路の利用が増えた結果、混雑を極めるサービスエリア(SA)などで問題がエスカレートする例が見られる。「ようやく空きスペースを見つけても、しばらくしてドアを叩く音と『うるさい。違う場所に行ってくれ』のクレーム」と、岡山県にある山陽自動車道のパーキングエリア(PA)にいた佐賀ナンバーのドライバー。「嫌がらせで冷凍機の電源を切られた仲間もいる」という。

 

〝ゴーッ、グォーン…〟と響きわたる大型トラックの冷凍機の音で聞き取りづらかったが、そのドライバーによれば「トラックも含めて一般のドライバーは逃げるように(冷凍車から)離れていくが、ときにはトラブルになることもある」。午前零時になるのを待てば高速代が3割安くなるETCの深夜割引を使おうと、ごった返しの状況になるSA・PAの現状が事態を悪化させている。

燃料油が暴騰するなか、冷凍機を回すためにエンジンを切れないのが冷凍トラック。庫内が広い大型車の場合はメインのエンジンに直結するタイプではなく、「冷却専用のサブエンジン式が主流だと思うが、ボディーの横っ腹に取り付けてある冷凍機に悪さをされることがある」と明かす。冷凍機のフタがあけばサブエンジンが止まる構造で、「普通は知らないこと。たぶん同業者」と話す。

 

「うちのトラックはフタをあけても冷凍機が止まらないようにしている」と話すのは岡山県のトラック経営者。フタで押さえつけた格好のピンタイプのスイッチが、あけると飛び出すことでオフとなり冷凍機が止まるそうで、同社の場合はピンが動かないように結束バンドで固定している(写真)。ただ、これは「冷凍機を点検する際、フタをあけるたびにエンジンが切れるのを防ぐために始めた」と社長は説明する。

一方、冷凍輸送を手掛ける兵庫県の運送会社も「サブエンジン式は直結に比べると確かにうるさい。トラブルになるから早めに出て、目的地となる冷蔵庫が集まる港湾エリアで仮眠すればいいが、そうすると拘束時間の問題で引っ掛かることもある」と社長。同社も冷凍機のフタをあけられる被害を経験したが、ほかにも「排気口にナイロンなどを張り付けられたら、それでエンジンがオーバーヒートしてしまう」と教えてくれた。

 

「拘束を減らすために出発時間を会社が指示し、その後は4時間の運転で休憩30分。目的地が同じだと休憩するポイントも似てくるから、おのずと特定のSA・PAに車がたまる」と話すは岡山ナンバーの大型冷凍車に乗るドライバー。「SAに入っても止められる保証はないし、冷凍機の音でトラブルになるのも嫌だから手前の流入路に駐車したり、本線に戻るエリアに止めることもある」というから危なげだ。

 

広島ナンバーのドライバーは「東京インターの直前には小さなPAしかなく、その手前の海老名SAは零時前に満ぱい。SAの駐車場を広げる話もあると聞くが、それよりも深夜割引を見直せば大混雑は消える」と、トラックが時間調整で滞留する問題を訴える。前出の兵庫県の社長は「夏場の地面は熱すぎるし、集中豪雨で冠水するリスクもあるから、最近は冷凍機をトラックの屋根に載せる低床車を導入している。パレットの2段積みもでき、冷凍機にいたずらされるリスクもなくなる」と話す。

 

 

常識となった非常識 料金いらずの冷凍庫

 

営業用の貨物自動車を使う商売という点は同じでも、運ぶ荷物や車両の種類・形状が違えば全くの異業種になるのがトラック運送業界の実情だ。コロナ禍でニーズが増えた冷凍車もその一つだが、エンジンがメインかサブかに関係なく「インタンク価格がリッター30円以上の値上がりになっている」(岡山県のトラック事業者)という高価な軽油を燃やし続けなければならない特殊車両でありながら、そのサービスの対価が回収できない非常識が常識化している。

 

同県を中心に関西から広島をカバーする冷凍輸送の経営者は「荷物を積んで戻ってきた4トン車を別の仕事で使うため、車庫に止めてある大型トラックのエンジンをかけて冷凍機を回し、そこに4トン車の荷物を移す」という。仮に荷下ろし先の休日を挟めば丸24時間、そのままエンジンをかけっ放しにするそうで、「近隣の住人から『家が揺れる』と苦情が入り、会社に無言の電話が続くこともある」と打ち明ける。

 

「庫内が一定の温度に下がるまで、とにかく冷凍機はうるさい。しかし、積み込みに入った時点でマイナス15度になっていないと受け付けてもらえない」と、会社の車庫で予冷の作業が欠かせない事情を口にするのは兵庫県の社長。「その間の燃料代? もらえるわけがない」と苦笑する。

 

同県で冷凍輸送を手掛ける別の経営者は「荷物を積んだまま会社に留め置くために数台分の専用電源を整備しているが、車庫の屋根に反響して一段と音が大きくなる。でもサブエンジンをかけるよりはずっと静かだ」と話す。「(留め置きしている時間が)長い場合は別料金をくれる」というものの、同社の場合も「丸1日くらいなら請求はできない」と、明らかに非常識が常識化している。