緊急事態宣言が解除された矢先の「まん延防止等重点措置」の適用など、日本経済が新型コロナウイルスに振り回され続けている。飲食店向けなど荷主の業種によっては大幅に物量が減少しており、新たな事業の柱を模索する運送経営者が出てくることも予想されるが、そんな事業者を後押しする助成事業がスタートする。経産省・中企庁が15日から第一次公募を開始する「事業再構築補助金(中小企業等事業再構築促進事業)」だ。

「ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業の思い切った事業再構築を支援する」ことを目的に掲げ、予算額が1兆1485億円と巨額で令和2年度第三次補正予算の目玉と言われている同制度には、物流事業者の関心も集まっている。

補助対象となる経費は、倉庫などの建物の建設・改修費、機械装置・システム購入費、クラウドサービス利用費、パンフレットや動画作成、展示会出展といった広告宣伝・販売促進費、教育訓練の研修費など。中小企業を対象とした「通常枠」での補助率は3分の2で、補助額は100万円から最大6000万円。「融資」ではなく「補助」のため、原則、返済は不要。

主要な申請要件は、①申請前の直近6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年又は2020年1~3月)の同3か月の合計売上高と比較し10%以上減少②新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編のいずれかに取り組む③認定経営革新等支援機関と事業計画を策定する(補助金額が3000万円を超える案件は金融機関も参加)。事業計画では、補助事業終了後3~5年で、営業利益・人件費・減価償却費を足した「付加価値額」の年率平均3.0%以上の増加、または従業員1人当たり付加価値額の同3.0%以上増加の達成を見込む内容が求められる。

第1回の応募締切は今月30日午後6時のため、これから準備を開始し間に合わせるのは現実的に難しいが、同省では「公募は1回ではなく、令和3年度にさらに4回程度実施する予定」としており、チャンスは残されている。ただし、採択率は多くの補助事業で回を重ねるほど低下する傾向にあるため、早めに挑戦するべきと言える。

なお、同補助事業の受け付けは電子申請のみ。1つのID・パスワードで様々な行政サービスにログインできる「GビズIDプライムアカウント」を取得しておく必要がある。

ロジヤ板垣氏「スケジュールにも注意」

神奈川県でデジタコやドライブレコーダーの販売を手掛ける商社の営業部長は、「公募要領を見たが、運送事業者ではハードルが高いと感じた。補助金がもらえなかった際に話がややこしくなるので、こちらからは積極的に提案していない」と語る。

一方、名古屋市のシステム会社社長は、「製品や市場の『新規性』がどう扱われるかまだ分からないが、『自社にとっての新規性』で良いという話も聞くので、『トラック運送事業者が新しく倉庫を建てて、新規荷主を獲得しにいく』や『長距離事業者がクラウド型運行管理システムを導入し、地場のコンビニ配送を始める』などでも採択される可能性があるのではないか」と語り、「物流コンサルと組んで運送事業者に案内していく予定」だという。

また、「事業再構築補助金で採択されなくても、『ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)』や『IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金)』など、運送事業者が活用できる制度は他にも存在する。そういった情報に疎い運送経営者が多いが、申請の手間を惜しまず、積極的に活用すべき」と付け加える。

なお、同社長も、「補助金を派手にぶら下げての営業はしない。もともとシステム導入や倉庫立ち上げなど何らかの計画があった会社に『もらえるかもしれませんよ』という感じで提案していく」という。

ロジスティクス経営士と中小企業診断士の資格を持ち、認定経営革新等支援機関としても登録しているロジヤ(大阪市中央区)の板垣大介氏(写真)は、「現在、事業再構築補助金での複数の相談を受けている。『トラック運送業が新たに倉庫業』というパターンが数社あるが、実施期間が『交付決定日から12か月以内』のため、何かを建てる計画の場合は、スケジュールにも気を付ける必要がある」と注意を促す。

 

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