全ての業種・業界に、市場のグローバル化や労働力不足など、ビジネス環境の激しい変化に対応していくため、データとデジタル技術を活用して、ビジネスに関わる全ての事象に変革をもたらすDXへの取り組みが推奨されている。コロナの影響もあって、物流業界においても2021年を物流DX元年とし、変革が期待されているが、進捗状況は思わしくない。

DXとは、デジタル技術を用いることで、生活やビジネスをより良いものへと変革させるということで、デジタル化という意味ではない。だが、そもそもデジタル化が進んでいなければ、DXにも取り組むことはできない。

AI(人工知能)ソリューションを開発・提供するAutomagi(野呂堅太郎社長、東京都港区)が7月にインターネットで実施したアンケート「物流業界の効率化実態調査」(調査サンプル:物流業界において物流業務・物流管理業務を担当する20代以上315人)によれば、ITを活用して必要な物流業務を全て効率化できている企業は1割未満(6.3%)であることが分かった。

また、効率化が進んでいる業務トップ3は、「配送料金の算出(10.5%)」「出荷指示書や納品書の作成業務(7.0%)」「荷物の検品・仕分け業務(6.7%)」で「荷物の管理業務を効率化できている(6.3%)」が続いた。このほか、荷物情報やサイズ情報の収集・管理業務の効率化を進めたいという企業は8割(80.0%)だった。

この調査結果について、物流業界のDX化をサポートしているAutomagi戦略事業推進部部長の和田龍氏は、「アンケートは、データの活用や、ITもしくはロボットを活用することで効率化ができているかどうかを調査したもので、調査結果から物流業界は全般的に、デジタルやITを活用しきれていない状況であることがわかった」と話している。

「物流業界のクライアントとお話しして感じたのは、経営陣はデータやITの活用を進めていきたいと考えているが、現場の人の抵抗感が強く、紙を使っている方が速いと考えている人もいて、なかなか浸透しない」とし、「物流業界に限ったことではないが、全体的にITリテラシーが低いので、現場で浸透するには使いやすいソリューションでなければならないというのが大前提になる」という。

「デジタル化を進める上で、当社のATを導入していただく場合、AIが、何ができて何ができるということよりも、業務適応として当てはまるのかというところが非常に大事だと考えている」とし、「その上で、データやIT、AIなどを活用してビジネスをより良いものに変えていくことがDXで、それを実現するためには、ビジネスを変革するためにデータやIT、AIなどをどのように活用すれば良いのかを考えることができる知識のある人材が必要となる」としている。

このように、物流業界ではデジタル化や、DX化が思っている以上に進んでいない。その理由と今後どのように取り組んでいくべきかについて、ローランド・ベルガー日本法人(東京都港区)パートナーの小野塚征志氏は、「DXとは何かということが、まだあまり理解されていません。DXとはデジタル化ではなく、デジタル技術を活用することでビジネスモデルを変革し、新たな事業価値を生み出すことなのです」と話す。

その上で、「そもそもデジタル化も進んでいないのが現状で、『デジタル化だけだと、投資対効果を得にくい』『中小企業であるがゆえに資金がないということではなく、リテラシーの問題によるところが大きい』『物流の場合には取引先もデジタル化を進めてもらわないと効果を享受しにくい』といった理由でデジタル化が進んでいないと考えられる」という。

DXが進まない理由については「DXが何なのかがわかっていない」「どう進めればよいのかがわからない」「推進できる人材がいない」があるとしている。これを踏まえて、DXを進めていくには「DXの真の意味を的確に理解した上で、単なるデジタル化ではない企業としての目指す姿を考えることが重要である」とし、「目指す姿と現状を比較し、そのギャップをどう埋めるのかを考えることがDX化には重要なポイント」としている。

「デジタル化やDX化への取り組みで、先頭に立つ必要は無いが、しっかりとアンテナを張って、乗り遅れないようにしなければならない」とし、「今後、確実に業界のビジネスモデルや構造が変わっていくため、状況の変化にあわせて変われなければ、システムが合わず取引が面倒になってしまうことから、仕事を任せてもらえなくなる。自社にDXを進めることができる人材がいなければ外部の力を活用すれば良いので、関心だけでも持っていることが大切」としている。

◎関連リンク→ ローランド・ベルガー