「義理と人情は、もはや遠い昔のことなのかなあ」とこぼす運送会社社長。

同社には、入社して3年になる30代前半のドライバーがいるが、そのドライバーが突然、辞表を出し退職したいと言い出したという。

「3年経って仕事に見切りをつけ辞めるというならまだ理解もする」が、そのドライバーの場合は少し違った。

入社から3年経って仕事にも慣れてきた今年、同社長は、そのドライバーから「マイホームを建てたい」という相談を受けた。

自社の社員が家を建てる、社長自身もうれしくないはずはない。金融機関を紹介し、金利を安くするなど交渉も手伝った結果、そのドライバーは借り入れができ、念願のマイホームを手に入れた。
社長自身、社内報で紹介したり、新築祝いを渡したり、とにかくそのドライバーのマイホーム取得を喜んでいた。

その1か月後にそのドライバーが退職願いを出してきたという。

開いた口がふさがらず、唖然としたという同社長だが、理由を尋ねると、「家に早く帰り、もっと家族と一緒にいる時間を増やしたい」とのことだった。

たしかに最近、荷物が増えたことで荷待ちが増加し、労働時間が長めになっていた。同社長自身もその対策には頭を痛めていた。

しかし、「マイホームを建てて、まだ1か月というこの時期にそれはないだろう」とこぼす同社長。

さらに、辞めることに申し訳なさなどは微塵もなく、有給消化を言ってきた態度には、「さすがにあきれた」と同社長は話す。

「辞めるのは仕方がないし引き留める気もない。別に見返りを期待しているわけでもないし感謝しろというわけでもない」とした上で、「家を建てるのに銀行を紹介してもらったり新築祝いをもらっているにも関わらず、それからわずか1か月で辞めると言い出せるその姿勢が寂しい」と本音をのぞかせる。「私がもし会社を辞める気でいるなら、銀行を紹介してもらうことも断るし、新築祝いも受け取らない。それが筋ではないのかなあ」と浮かない表情の同社長は、「それとこれとは別のことと割り切っているのかもしれないが、そうした子が増えているなら正直、寂しい世の中になったなあと感じる」と漏らす。