電動キックボードが絡んだトラブルが都内で急増しており、無免許や信号無視などの違反、人身事故も発生している。電動キックボードは、道路交通法上の原動機付自転車に該当し、運転免許やヘルメット着用、ナンバープレートの設置が義務付けられている。現在、新たなモビリティのさらなる活用を目指して、既存の交通ルール等のあり方を見直す、規制緩和の検討が進められているが、トラックなどの自動車にどのような影響が出るのか関係者に話を聞いた。

電動キックボードとは、電動のモーターにより走行するキックボード(車輪付きの板)のことで、もともと、子供用の玩具だったものが大人も使える乗り物として、中国からシェアサービスを通じて世界的に広まっている。日本では道路交通法並びに道路運送車両法上の原動機付自転車のカテゴリーに当てはまるため、原動機付自転車のルールに準じなければ走行することができない。
そのため、既存の交通ルール下では十分にその性能や利便性を生かすことができない可能性が指摘されており見直しが求められている。

 

 

◎多様な交通主体の交通ルール等のあり方に関する有識者検討会

高齢化や人口減少が進む中で、自転車だけでないモビリティの多様性が求められており、警察庁では新たな交通ルールのあり方について有識者とともに検討を行っている。

「多様な交通主体の交通ルール等のあり方に関する有識者検討会」では4月に中間報告を発表。電動キックボードなど小型低速車(~時速15km)は、免許不要、ヘルメット着用任意の方向で考えられており、「歩道走行禁止で、自転車専用レーンや路側帯、車道での走行が適当」であることが確認された。

警察庁の実験結果を踏まえると、「最高速度が一般的な自転車利用者の速度と同程度に抑えられている小型低速車」を運転するにあたっては、「一定の安全教育を受けることで十分であり、何らかの運転免許を取得している必要まではないのではないかと考えられる」と提言。

また、ヘルメット着用については、小型低速車を「自転車と同等の速度で、同様の場所を通行するもの」とするのであれば、小型低速車についても、「自転車と同様にヘルメットの着用促進を図っていくことが適当」としている。

一部の委員からは、小型低速車について車両登録制度を設けるべきだとの意見も出ているという。この点に関しては現在、小型低速車に係るいわゆるナンバープレートのあり方について関係省庁との検討が行われている。

 

◎全日本トラック協会「免許のような資格も必要」

全ト協では「電動キックボードが車道を利用するからには、車と同じように安全を守る義務がある。ルールをしっかりと身につける必要があるのではないか」とし、「ナンバープレートはもちろん、免許のような資格も必要ではないかと考える」としている。

 

◎Luup 「安全対策の徹底を図る」

電動・小型・一人乗りのマイクロモビリティの短距離移動のためのシェアリング事業「LUUP」を展開しているLuup(岡井大輝社長、東京都渋谷区)は、電動キックボードの適切な走行ルール策定のため、関係省庁による実証実験に参加している。

規制緩和について、「当社は、電動マイクロモビリティを用いた短距離移動インフラを日本に普及させることを目指しており、その1ステップとして、世界で普及が進んでいる電動キックボードを用いて、実証実験を行い、その結果に基づいて安全に走行するためのルールをつくると認識している」と話す。

現時点の電動キックボードを取り巻く状況については、「日本では明確なルールがまだ定まっていないことが課題」とした上で、「自動車や自転車同様、全ての公道を走る乗り物と同じような事故が想定されるため、事故が発生しないように安全対策の徹底を図っていかなければならない」としている。

 

◎日本電動モビリティ推進協会 鳴海禎造会長「車道走行を前提に」

次世代に向けた電動モビリティの在り方を提言している日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)の鳴海禎造会長は、「電動モビリティの普及は必要不可欠だと考えているが、普及ありきで規制緩和を進めていくのではなく、今の法律の中で事業を行いながら、ユーザーにとって、より使いやすい形で法律の改正を促して行く考え」と説明。

「今回、国も新しい枠組みの緩和とセットで自転車の取り締まりとルールの強化を検討しているようだ。いきなり完全解決とはいかないまでも、将来的には、自転車を含めて歩道には車両が乗り入れられなくなる可能性が高いため、自転車専用道がない場所は原付バイクと一緒で車道を走行することになるだろう」と話す。

「車の視点で考えると、電動キックボードや自転車が車道に入ってくるのは危険だが、交通弱者である歩行者を守る視点からみると、車道に出ることは当然ということになる」。

電動キックボードなどの電動モビリティや自転車が車道を走ることを前提に、交通事故が起きないように意識しなければならないが、キックボードで起こりやすい事故について同会長は、「キックボードは車体がコンパクトで不安定なので、道路に凸凹があると転倒してしまう」と説明する。

◎日本事故防止推進機構 上西一美理事長に聞く「想定される事故リスク」

―規制緩和について
「賛成も反対もないが、自転車ですら歩道と車道の区別がつかずに中途半端な状態になっているので、電動キックボードの規制緩和に疑問点が多いのは事実」

―想定されることは
「自転車事故の状況を見ると容易に想像がつくが、特に車両の免許を持っていない方が乗るというのは非常にリスクが高い。急な進路変更や無理な横断など、車の運転者の予測を超えた行動をすることが予想される」

―速度制限について
「電動キックボードが車道を走行していた場合に、急な進路変更などで接触するのは車両。よって、電動キックボードの運転者の死亡率は車両側の速度が最も影響するため、いくら電動キックボードの速度を制限したところで、事故になるリスクが上がるだけのように思う。逆に、歩道を走行する場合は、歩行者との衝突事故のリスクがあるので速度制限は有効」

―ドライバーが気を付けるべきことは
「電動キックボードと並走や追い抜く際は、ある程度の車間距離を開けることが必須となるだろう。欧米では自転車との車間距離は1.5mというルールがあるが、日本にはない。しかし、1.5mぐらいは意識してほしい」

「信号無視にも気を付けてほしい。青信号でも周囲に注意を払うことは当然だが、赤信号から青信号に変わった直後など、周囲を確認してからアクセルを踏む習慣がより重要になる」

 

◎トラックドライバー情報サイト「ブルル」がアンケート 「反対」が8割

トラックドライバー情報サイト「ブルル」が電動キックボードの規制緩和についてドライバー245人を対象に行ったSNSでのアンケートでは、「やめてほしい(反対)」が79.2%を占め、「問題ない(賛成)」の12.7%、「どちらでもいい」8.2%を大きく上回る結果となった。やはり「車道は走らないでほしい」というのがトラックドライバーの意見のようだ。

多かったのが、「自転車などの二輪車でさえ悪質な運転をする人が目立つのに、トラブル増加の原因になりかねない」「自転車と合わせて規制をもっと厳しくしていいと思う」など、自転車と同様に車道を走行するのは危険との意見。

なかには「トラックだけリミッターをつけたり、免許制度を厳しくしているのに、規制緩和する意味がわからない」と、規制が強化されるばかりのトラックの境遇と比較し、語気を強めた声も。

一方で、「誤解が広まっているが、政府は電動キックボードの規制緩和だけでなく、介護車両や自動配達車両も含めた多様なモビリティに対応していくためにルールを検討しようとしている。道路は自動車だけのものではない」と賛成意見も見られた。

また、あるドライバーからは、「規制緩和の内容がわかりにくい」という意見も。「車道を走られるのは危険だから『歩道を走ってほしい』と思い、今回のアンケートで賛成に票を投じたが、時速15km以下とはいえ歩道では危険ではないか。やはり反対にしたい」とし、「免許不要は絶対ダメ。むしろ、自転車も免許とまではいかなくても登録制にして、違反に対しては厳格に取り締まってほしい」と訴えた。

 

 

◎長瀬総合法律事務所 長瀬佑志弁護士 事故時の過失割合

運送業界に詳しい弁護士の長瀬佑志氏(長瀬総合法律事務所、茨城県牛久市)に電動キックボードとの事故時の過失割合について聞いた。

「道路運送車両法上の原動機付自転車となる従来の電動キックボードと産業競争力強化法での特例を活用して公道実証実験が進められているいわゆる特例電動キックボードでは、法規制上の扱いが異なることを踏まえた上で、『過失割合も変わる』と考えられる」

「自動車事故における過失割合は、事故類型ごとに認定・判断基準が定型化されている。この過失割合を整理した『別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版(別冊判タ38)』では、『単車と四輪車(第4章)』の事故類型と、『自転車と四輪車(第5章)』の事故類型とで、過失割合の判断基準が異なるものとして整理されている」

「電動キックボードは、原動機付自転車に該当することから、トラックと接触事故を起こした場合の過失割合は、『単車と四輪車(第4章)』の事故類型に従って考えることになる。一方、特例電動キックボードのように、『免許不要でノーヘルOK』となった場合には、実態として自転車に近い車両と考えられるため、『自転車と四輪車(第5章)』の事故類型に従って考えることが想定される」

 

 

トラックドライバーは、車道を走る自転車と同じように、電動キックボードも意識して運転しなければならなくなり、リスク対象が増えることになるが、規制緩和の流れを変えることはできない可能性が高いため、対策を整えておく必要があると言える。