運送業界では、ドライバーが副業を希望した場合、労働時間の合計が長くなることで健康を害するとともに、事故につながるという懸念がある。そのため、副業を禁止しているところも少なくない。しかし、年々、副業に対する希望者が増加傾向にあることから、副業・兼業に関する就業規則を定める会社も出てきている。

 

川崎陸送 労働環境整備を目的に、就業規則に「副業・兼業規定」追加

川崎陸送(樋口恵一社長、東京都港区)は今年6月、「副業・兼業規定」を就業規則に追加し、社内報で全社員に向けて発表したという。2018年にはパートタイマー用に、すでにルールを作成していたが、今回、ドライバーを含めた全社員に向けて発表した。
人事を担当する樋口由人氏は、「入社の問い合わせの際に『副業は可能か』との質問が増えていたことがきっかけ」だと振り返る。

現状では、既存のドライバーで副業や兼業を希望する者はいないという一方、フォークリフトや受け付け業務などの庫内作業で、「本業の出勤前に働かせてほしい」とアルバイトへの応募が多いという。

同氏は、副業・兼業の就業規則を設けた一番の理由は、「過労防止」だと説明する。「副業・兼業を推進するという意味よりも、ドライバーをはじめ、社員の労働時間を知ることで、『労働時間が長すぎないか』が見える」と指摘し、「社員の労働環境の整備を目的にしたもの」と位置付けている。

 

大原記念労働科学研究所 北島副所長 「4つの疲労兆候」を指摘

ドライバーの疲労などに詳しい大原記念労働科学研究所の北島洋樹副所長は、就業規則がないことで、ドライバーが会社に副業を行っていることを知らせず他社で働く「闇副業」が問題になるのではないかとし、「会社が労働者の労働時間を管理する必要がある」と話す。

同副所長は、「ドライバーの中でも、不規則な勤務を行っている上、副業などで働いている人は、眠気を感じやすい。プロドライバーであれば眠気に対応する方法を知っているとは思うが、高速道路などを走行する単調作業では危険な状態になる」と説明する。

同副所長によると、疲労兆候の表れ方には、急性疲労、亜急性疲労、日周性疲労、慢性疲労の4種類があり、その中でも、連日にわたり疲労が蓄積する慢性疲労に陥ることで作業能力が低下し、体調不全や情意不安・不眠などの特徴が出るという。

「本来、自由時間に何をしようと個人の自由」であるというが、「闇副業になっているのが一番よくない状況」だとし、「全体の労働時間がどれくらいになるのか、トータルで管理できているのが理想」と指摘する。

ただ、現在、労働者から労働時間を聞くことでしか把握できる可能性はないとし、「そのためにも、ドライバーとコミュニケーションを取っていくことが最も必要だ」という。「副業・兼業によって無理な働き方か否かを見分けるのは難しいが、見分けることが最も重要となる」と同副所長は話している。

厚労省によると、副業・兼業のガイドラインを作成した本来の理由は、様々な分野の人とつながりができること、そして労働者のスキルアップを想定したものだという。

一方、業界では、自社のドライバーが副業・兼業を希望する例だけではなく、ドライバー不足などから、繁忙期や土日などに逆にアルバイトとしてドライバーを雇用する運送事業者もある。

労務提供上の支障がある場合や業務上の秘密が漏洩する場合、競業により自社の利益が害される場合、自社の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合には、副業・兼業を制限できることもある。

しかし、国が副業のガイドラインを作成するなど、副業・兼業はもはや時流で避けては通れないといえるのかもしれない。

だからこそ運送事業者は、安全な運行を目指すためにも、副業規定を設けた就業規則を定めるとともに、ドライバーの労働時間を把握し、しっかりと疲れが取れる休み方の指導も行う必要があると言える。

◎関連リンク→ 公益財団法人大原記念労働科学研究所