東京商工リサーチが発表した2021年上半期の全国企業倒産件数における運輸業の倒産件数は120件で昨年同時期比2.5%増。コロナ禍による不景気感もあって運賃相場が低迷する中、物流企業の生き残り戦略としてM&Aが注目されている。

日本M&Aセンター業界再編部の物流業界責任者である山本夢人部長は、「後継者不在やオーナーの高齢化に伴う事業承継型のM&Aと共に、数年前から増加傾向にあるのが、社長など創業者が会社に残ったまま、もしくは社長をそのまま継続の成長戦略型のM&A。コロナ禍では以前にも増して物流業界全体でこうした譲渡や事業承継に関するお問い合わせが増えている」としている。同氏によれば、譲渡の企業規模も年々大きくなっており、問い合わせ件数自体はコロナ禍前と比べ2倍程度にはなっているという。

一方、譲受に関する問い合わせ件数も同様に増加しており、成約件数も2019年度から2020年度にかけて180%となっている。同氏は、「2024年問題に対して危機意識をもっているのは譲受企業も同じ。それまでに体制をつくり、基盤を強化したいという意向があり、そのために譲受に関する情報を集めたいという企業が増えた」と増加傾向を分析する。

同氏は、「今や物流企業同士の提携だけでなく、荷主企業から自社物流機能を維持するため、物流企業をM&Aしたいという問い合わせも珍しくない。それでいて創業者や役員など功労者がM&A後も同じ企業で活躍し続ける光景も一般的なものとなりつつある。当社も仲介時にはソフトランディングが叶うようなマッチングを心掛けている」としている。

名古屋東部陸運(小幡哲生社長、愛知県豊田市)は、昨年、京伸トラック(京都府久世郡)を譲り受けている。

同社は当時、近畿圏における顧客の配送需要増加を見込んで京都圏への進出を検討していた所、日本M&Aセンターより京伸トラックを紹介されたという。

小幡社長は、「当社にとっても初めてのM&A。従来通りであれば自社営業所を設立するか、現地でその土地に強い協力会社を探し提携してきたが、取引先の戦略に後れを取らないためにはタイミングも重要であり、総合的に判断してM&Aが得策と考え、譲受を検討することとなった」としている。また、「仲介してくれたM&Aセンターの山本氏が相手企業のオーナーの情報まで十分に把握し、会社の良い所もそうでない所も正確に伝えてくれていた。初めての決断が可能だったのも、この情報が大きい」としている。

京伸トラックは名古屋東部陸運と異なる貨物をメインとしてきた。昨年は社内環境の確認および労働環境の向上といった取り組みに注力しており、無理に社内を大きく変えることはしなかった。中長期的に拡大に伴う相乗効果を期待できる体制の構築を考えているようだが、将来的には名古屋東部陸運自体も京都へ進出し、共同拠点を創設するなどスケールメリットを生かした躍進が期待できる。

一方で譲渡側となった京伸トラックもコンプライアンス面など大きなメリットを享受することとなった。小幡社長は、「譲受当初から当社の副会長をはじめ、エース級の執行役員を投入し、京伸トラック様にも最大限の敬意を払いながらソフトランディングの実現に力を入れてきた。中でもコンプライアンスの把握には特に力を入れた。当社に対する印象も変わっているようで、当初は戸惑いもあった従業員の雰囲気も変化しただけではなく、今では譲渡前よりも労働環境が改善されたという声も聞こえている」としている。