「今年も提出期限となったが、これを出して何の意味があるのかと思ってきた」と西日本地区でトラック運送事業を営む50代後半の男性。運送事業者に毎年の提出が義務付けられている事業報告書、そして事業実績報告書の話だ。重点項目ではないものの、適正化実施機関による巡回指導の対象にも含まれる。過当競争が続く多層構造のトラック運送の実態を踏まえれば、標準的な運賃を弾き出すのと並行して、市場規模を正しく把握することも重要だ。提出の窓口となる同地区の運輸支局では「各種統計に活用される」と話すが、報告書には首を傾げたくなる数字も並ぶ。

写真は冒頭の社長が過日、手続きを済ませた2つの報告書。会社の決算書に等しい事業報告書を運輸行政に提出(決算日から100日以内)する意味もわかりにくいが、それより気になるのは、集計することでトラック運送の市場規模を的確に映すはずの事業実績報告書(4月1日から翌年3月31日までの状況を7月10日までに提出)に記述する内容だ。

同報告書の真ん中から下にある輸送実績欄では、その会社が保有した年間の延べ車両台数や実際に動いた台数、走行キロや実車キロの記載が求められる。また、輸送トン数は「実運送」「利用運送」に分けて記入するようになっており、傭車比率をつかむ資料に生かせそうだ。ただ、一番右にある営業収入の項目は「(実運送も傭車分も)全部まとめて記入」の形になっている。

男性の会社では毎日、出発・帰社時の走行メーターを日報に記録させて月ごとに集計。車両の代替えや増車した際も漏れなく記録することで「車両数や走行キロなどは正しく反映できているはず」と話す。利用運送による輸送トン数も正確に記しているというが、営業収入を書く欄には実運送と傭車を区別するスペースがないこともあり、「取扱手数料を抜く前の運賃を合算している」と明かす。

そうなると、例えば元請けが10万円の運賃から2万円の手数料を抜いて下請けに回し、下請けも1万円を抜いて孫請けへ、その孫請けが5000円を抜いて…。実際には大型トラック1台分の荷物で10万円だった運賃が8万円、7万円、6万5000円…と複数のトラック事業者があちこちで売り上げを計上することで数倍に膨れ上がる可能性もある。

「国内の物流市場は24兆円規模で、その約6割をトラック運送が占める」というデータがあるが、どう受け止めるべきか。働き方改革の完全実施に備えて国交大臣が告示した標準的な運賃とは真逆の方向へと値段を下げている現状が、トラック運送の過当競争ぶりを雄弁に物語っている。

「十数年前に先代と交代したが、報告書のスタイルは当時と何も変わっていない」と男性。「供給過多は間違いないと思うが、この業界を正しく映すデータを見てみたい」と苦笑する。