返却空コンテナの清掃を有償、無償を問わず海コン輸送のドライバーが行う問題が一部の港で起きている。なかでも名古屋港では汚れがなく洗う必要のないコンテナも含め、すべての返却コンテナをドライバーが水洗いする問題が常態化。国際複合一貫輸送約款において「荷主は、汚れがない状態で返却する責任を負う」と規定されているが、荷主ではなく海コン輸送事業者が担っている。

 

神戸港で走っていた海コンドライバーが阪神大震災を機に名古屋港に移ったところ、神戸港ではなかった水洗い作業が課せられた。驚き、疑問に感じたそのドライバーは声を挙げ、これを機に名古屋港で水洗いを問題視する考えが広がるが、一向に改善されなかった。そこで2012年12月、中運局が中心となって「返却コンテナの清掃・洗浄問題勉強会」を設立。名古屋港関係者が集まり、2018年までの約5年間、勉強会を開催し調査と検討を続け、2014年には荷主企業に要請文書を発出。適切な洗浄方法と洗浄コストの負担に対する理解と協力を呼びかけた。

一方、勉強会開催の成果について中運局は「一部改善されたものの、まだ課題があるのが現状」という認識を持つ。

コンテナのなかには人体や環境への有害物質を含むものが多数存在することもあり、無防備な状態で清掃するドライバーは健康被害を受ける恐れがある。また、洗浄による汚水の垂れ流しは環境への影響が懸念される。さらに、荷主に対し立場が弱い海コン事業者は、水洗いという付帯作業を無償で行うケースも多い。

先に述べた国際ルールでは「洗浄は荷主の責任において行う」とあるが、海コン事業者が引き受けるケースが多数。その理由について、愛知県の海コン事業者は「空コンテナの返却時にドライバーはターミナルに長時間並ぶ。自分の番が来た時に清掃や洗浄が不十分と判断されると引き取ってもらえず、次の仕事に行けない。受け取り拒否された場合、海貨業者を通じて荷主に相談するが、返事を長時間待つことになり、ドライバーの拘束時間は増すばかり。受け取り拒否を恐れるドライバーは事前に水洗いし、また『清掃した』ことが一目瞭然である水洗いではタイムロスがない」と説明する。

同社では水洗い対策として社内の敷地に複数本のホースを用意し、コンテナを洗えるスペースを確保。付帯作業として荷主から費用をもらえているか尋ねたところ、「もらえるはずがない」と断言した。

ある海コン事業者は「輸入コンテナのなかには運送会社が汚したわけではなく初めから汚いものもある。その汚いコンテナを名古屋港のドライバーが水洗いしている。世界の汚いコンテナを輸入して、輸出するときはきれいになっている。俺たち運送会社が世界中のコンテナをきれいにしているよ」と冗談交じりに皮肉る。

 

2013年に同勉強会が実施した海コンドライバーへのアンケート調査によると「空コンテナの清掃は誰が行っているか」という設問に、83.6%が「運転者」と回答。「水洗いをしておけばバンプールで受け取り拒否されない」「ドライバーが水洗いをすることが当たり前になっている」などと理由を答えている。

また、「清掃中、体調不良になったことはあるか」という設問には「ある」と答えたドライバーは57.3%で過半数を超える。

全港湾東海地方名古屋支部は中運局に毎年度、労働環境や労働条件改善に関する要請書を提出している。そのなかに、「返却コンテナの清掃・洗浄等は港湾事業者の職域であると指導するべき」「名古屋港のコンテナターミナルは返却コンテナをターミナルの責任として無条件で引き取るよう指導し、再度勉強会等の開催、アンケートを実施し調査と検証をすべき」と要望を提出してきたが、芳しい答えはいまだないという。

全港湾同支部の関係者は、同問題について根本的な解決が必要と話す。「本来、ドレージ会社は運ぶだけが仕事。有害物質を含む可能性があるコンテナを洗うのはドライバーに危険がともなうし、どこでそれを洗えというのか」と話す。また「現場で働いている人が変わっていくからこそ、定期的に勉強会等を開催し周知しなければ浸透しない」とも。

例えば先の同勉強会で危険物プラカード等のあるコンテナはターミナルが引き取るように決定したが、ターミナルの検査員のなかには「汚いコンテナは引き取ってはダメ」という認識が先行し、受け取りを拒否する場合もあるという。

また、返却コンテナの清掃代は事前に荷主へ申し出る必要があるが、「暗黙の了解」としてドライバーが事前に洗ってから空コンテナを返却するため、金銭の請求ができていない。

特に全港湾が問題視しているのは金銭での解決策だ。「ドレージ会社は立場が弱い。仮に1本1000円で清掃代を払うと決めても、800円や600円…と値下げを強いられ、最終的には無料でドライバーがやることになる」という。また、「料金をもらう・もらわないは契約の話で、これとは関係ないと切られる可能性が高い。金銭で解決するのではなく、ターミナルが全部の返却コンテナを引き取ることが重要」と話す。

地道な努力を続けなければ、今後もドライバーが空バンを洗うという理不尽が続く。