「さすがに表に出すことはできないだろうが、ブラックリストのようなものを業界内で共有できないか」――と過日、岡山市で開かれた会合に集まったトラック経営者らが話しだした。リストアップの対象とされたのは“しょっちゅう事故を起こすドライバー”だ。採用後に事故を繰り返すドライバーをどう扱うかは難しい問題だが、できれば入社前の面接段階でチェックしたいとの思いが経営側にある。「(職業)ドライバーになれない欠格事由が必要な時代だ」との声が上がる一方で、「そうしたドライバーを採用し、雇い続ける経営者の資質こそが問題」と厳しい意見も聞かれる。

 

「同じ運送会社で6回の事故を起こしたドライバーが、転職先の運送会社で再び事故を起こす事態が発生した」と同日の会合で進行役を務めた男性。参加した20人近くのトラック関係者の大半は「頻繁に事故を起こすドライバーのリストを(水面下で)回せないのか」「指導しても繰り返せば(自分の会社では)やめてもらう」と反応した。

同市内の中堅トラック事業者を訪ねた際に、こうした状況に遭遇した場合の対応を聞くと「そんなドライバーは頭から採用しないが、入社してからの事故には一定のルールがある」と社長。事故が続いたドライバーが少し前にも在籍したそうで、「過失や被害の大小にもよるが、数週間から1か月は構内の仕事に回し、トラックに戻すときも事故時が大型であれば4トンから再スタートさせている」と説明する。

一方、会合の出席者のなかには「1回目、2回目…そのときどきに、どう指導したのか。どこも人手不足で大変だが、事故を6回も起こしたドライバーを使い続ける意味がわからない」と、経営側の資質をただす声もあった。

また、「(事故を起こして)転職してくるドライバーの個人情報が公開できないなら、トラック運転者としての『適性がない』と判定する入職規制が必要」と提議するシーンも見られた。

ところで、トラック運送会社が選任する運行管理者の責務として「新しく雇い入れたドライバーの(雇用前の)事故歴を把握すること」というのがある。特別な指導や適性診断(事故惹起者は特定診断)を受けさせる必要があるか否かを確かめなければならないためで、さらに確実にチェックするには自動車安全運転センターが交付する無事故・無違反証明書を活用する手もある。

 

適正化実施機関の巡回指導で重点項目とされる部分でもあるが、会社側にとっては採用時のリスク管理に生かせる貴重な材料だ。たとえ軽傷事故でも、それ以前の3年間にも事故歴があれば特定診断(Ⅰ)の対象になるため、過去1年・3年・5年間の交通違反や交通事故、運転免許の行政処分記録が明らかになる運転記録証明書のうち、適正化実施機関では「3年以上」の把握を求めてきた。ちなみに無事故・無違反証明書は名前の通り、無事故・無違反で経過した期間を証明するもの。

 

くだんの会合が開かれた岡山県は従来、各種のデータで全国平均値を示してきたことで知られるが、直近の3年間に県適正化実施機関が域内事業所を巡回した結果からは「しょっちゅう事故を起こすドライバーのリストを作る前に、トラック事業者がやるべきこと」が見えてくる。終えたばかりの2023年度(23年4月~24年3月末)と、その前の2年度分についても「否」と指摘されたワーストの項目は「特定の運転者に対して特別な指導を行っているか」というものだった。

 

21年度は調査した438事業所のうち167件(38.1%)、22年度が572事業所のうち170件(29.7%)、539事業所を調べた23年度も187件(34.7%)が「否」の判定。指摘内容の詳細を見ると、実施されていない特別な指導には「初任運転者の事故歴把握」も多く含まれる。こうして見てくると、ブラックリストを作るうんぬんの前に、まずは運転記録で事故歴などを確実に把握することがトラック運送経営の現場に求められるのでは――と思ってしまう。