第二話.岡野、姉ちゃんと住む

「岡野……。お前だけだぞ? プリント提出してないの」

 

 学校と言えば、これ。プリントだ。

 「お父さんかお母さんに渡してください」なんて言われても、うちには父も母もいない。

 ばあちゃんに渡してみたが、ばあちゃんもわからんとの事。

 結果、渡す相手のいないプリントは、ランドセルの下の方にクシャっとなって潰れているのがデフォになり、プリント出さない常習犯となった。

 

「ねぇ、学校終わったら遊ばない?」

「えと、ごめん、お母さんが岡野くんちは親いないから遊んじゃダメって」

「えぇ――……」

 

 友達が出来ても、相手の親に拒まれた。

 親がいないと何故遊んではいけないのか。

 それでも何人かの友達は、怒られようが気にしないと遊んでくれた。

 

「おばかの、お前こんな問題もわからんのか」

 

 教師は俺を『おばかの』と呼んだ。おかのとばかをかけたらしい。

 全然笑えない。今でこそ笑い飛ばすこともできるが、当時はそれなりに傷ついた。

 いい大人がこんなガキンチョにガキじみた嫌がらせ。

 今でこそ、教師がこんなことしたら大問題だが、当時はこんな教師による子供相手のモラハラも決して珍しくなかった。

 

***

 

 そんな、メンタルをゴリゴリ削られていたある日。

「ねえちゃん! きぃちゃん!」

「テルー!!」

 

 千葉で父と住んでいた姉二人が、母に連れられて、埼玉の祖母の家へと引っ越してきた。

 因みにきぃちゃんは下の姉の呼び名。きみえ、できぃちゃん。

 上の姉、まさえのことはそのまま姉ちゃんと呼んでいた。

 

 やっと家族で暮らせる。母はまた出稼ぎで家を出るけれど、姉弟一緒に暮らせる。

 ガキンチョだった俺は単純に喜んでいたが、如何せん、ばあちゃんの家には俺の他に二人の従兄妹も一緒。

 つまり、平屋のクソ狭い家にじいちゃんばあちゃん、俺、従兄妹二人。そこに姉二人が加わって計七人。

 しかも当時上の姉は中学卒業を控えたお年頃。上の従兄のヒロは姉と歳の近い男子だ。

 仲が悪いわけじゃないが、たまに会う程度の親戚の距離感は家族のそれとは違う。

 無茶ぶり過ぎた。

 数か月で姉、心折れる。

 

「アパートを。借りて下さい」

 

「なんで? おばあちゃんちで良いじゃない」

 

「お母さん、ヒロと私の歳考えてよ。従兄妹二人が嫌なワケじゃないけど一日二日なら兎も角、一緒に暮らすとか無理だって。おばあちゃんたちだって迷惑だと思うのよ」

 

「うーん、でもさ、きぃもテルも居るんだし」

 

「大丈夫だよ。私バイトするし! 姉弟三人で住むから、アパート借りてくれるだけで良いよ。きぃもテルも私がちゃんと面倒見るから!」

 

「うーん、じゃ、アパート借りるかぁ」

 

 交渉の末、姉Win。母は祖父母の家の近くに、2DKのアパートを借りた。
 ラブホの脇の如何わしいネオン煌めく教育上あまり宜しくない立地だが、はじめての「俺んち」に、わくわくする。

 俺たち姉弟三人での生活が始まった。

 

 

to be continued…


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