第十一話.岡野、母に唖然とする。

 流石に、姉を泣かせた罪悪感もあり、俺は翌日から大人しく学校へと通った。
 サッパリわからない授業を右から左に聞き流し、だらだらと過ごす。

 楽しかった日常が、急に色あせて感じてしまった。
 それでも何とか二ヶ月くらいは学校に通ったが、登校が苦痛でしかない俺は、少しずつまた学校をさぼり始め、金が無くなった頃、またテキ屋の門を叩いた。

 反省したんじゃないのかと思われるだろう。
 流石に姉には悪いことをしたと思っている。
 そこは勿論反省をしている。

 でも、反省しているのは馬鹿な嘘をついたことだけだ。
 俺が家にいなければ、その分姉ちゃんたちに掛かる負担だって減る。
 なので、家出は反省していない。

 グレたのは悪いと思わなくもないが、姉ちゃんたちに暴力振るったことはないし、家で暴れることもしていない。
 だから、そこは多目に見て頂きたい。

* * *

 テキ屋でのバイトを再開し、以前のようにテキ屋の詰所に泊まり込む日が続いたある日、街で喧嘩を吹っ掛けられた。

 当然受けて立つ。ガンの飛ばしあいからどつきあい。
 段々ヒートアップをしてくる。

「やるかゴルァ!!」
「てめーブッ〇すぞコノヤロー!!」

 お互いに襟首掴んだところで、誰かが警察に通報したんだろう。

「ちょちょちょちょちょ」

 エキサイトしていて気付くのが遅れた。
 警官が割って入って来る。

「はいはいはい、落ち着きなさい。ほら、暴れない!」

 警官に引きはがされたが、仲良く御用になった。
 前回は家出少年の補導で『保護』だったが、今回は喧嘩での逮捕。

 母親が呼び出され、迎えに来た。
 厳重注意が言い渡されて、俺は程なく母親に連れられ、交番を後にする。
 久しぶりに会う母親だ。
 特に何かを話すというでもなく、ぶらぶらと駅に向かう。

 そして、駅に着くなり母親が足を止めた。
 何やら財布を出している。

「じゃ、お母さんもう行くから。はい」

 ???
 母親、何故か一万円札を俺に差し出してくる。

「え? 何? くれんの?」

 意味が分からないまま一万円札を受け取った。

「や、だってあんたどうせ家出するんでしょ?」

 まぁ、するけども。

「お金どうせ無いんでしょ。生活費だよ。それじゃあね」

「あ、ああ、うん……」

 母親はぴらぴらと手を振ると、すたすたと駅の階段を上がっていった。

 …………。

 母よ……。

 そういうとこだぞ。

 親としてどうなんだ、その辺。

 

 なんでどうしてと泣いて責められたりするのは面倒だが、だからと言って淡泊すぎやしませんか。
 どうせ家出するでしょって、まぁその通りなんだが。

 なんかある意味すげぇな俺の母。

 唖然とする俺を置いて、さっさと帰っていく母を、なんともしょっぱい気持ちで見送った。

to be continued…


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次回更新は7/24を予定しています。 お楽しみに!