筆者が運送業に対する経営コンサルティングを開始した当時(1987年頃)、運送業界には「物流2法」(1990年12月施行)による規制緩和で、運送業界に熾烈な生き残り競争が起こるのではないかという危機感がありました。

この危機感を背景にして物流2法施行後の1991年に関西の運送会社を中心にローカルネットワークという求貨求車情報システムが生まれ、同時期に日貨協連がウェブキット(WEBKIT)という全国型のネットワーク事業を開始しました。




その約10年後に東京都足立区の運送会社がトラボックスという掲示板型の求貨求車ネットワークシステムを立て上げたのです。

それまでの運送業界には「水屋」と呼ばれる電話一本で荷主と運送会社をつなげる取扱業者しか存在しなかったため、事業者間で直接情報を共有するネットワークは画期的な存在でした。


規制緩和と景気後退が重なり、運送業界の荷不足が長期間続いたことから、帰り荷の確保に求貨求車情報を活用したいと考える運送業者が多く参加した為、急速に全国へ拡大しました。

筆者は創成期から現在まで拡大する過程を見てきましたが、この3つの情報ネットワークが求貨求車サービスの代表格になっています。その後、ITの進展に伴い、たくさんの求貨求車情報システムが各地に生まれ、それぞれが特徴を打ち出しながらサービスを提供しています。




今後、人手不足が進む中で物流機能維持、積載効率の向上、環境への寄与など様々な効果を期待されている求貨求車サービスですが、その実情を見ると、経営課題も抱えています。荷物情報や車両情報の登録件数に比較して、成約件数が伸び悩む傾向が見られることです。

もともと荷物情報の登録件数は景気動向に大きく左右されますので、荷動きが悪くなれば落ち込み、活況になれば増加するのですが、成約件数は常に低位にとどまる傾向が出ています。


日本の企業間物流では、荷主が委託する運送会社はほぼ決まっており、求貨求車サービスは補完的に利用する位置づけです。顔が見えない未知の事業者に安心して製品の輸送を任せられないとの懸念を持つ荷主が未だに存在します。運送業者間の荷物情報も低運賃の案件が多く、魅力に乏しいとの声がよく聞かれます。

将来これらの懸念材料を払拭して通常の物流体制に組み込まれるようになれば、さらに成約率が上昇するでしょう。


ところで現場で働くドライバーに対して、求貨求車サービスはどのような影響をもたらすでしょうか。これは運送会社の勤務ドライバーと軽トラックの個人ドライバーとで少し事情が異なるでしょう。

勤務ドライバーで歩合給制度の場合は求貨求車情報により実車率や積載率が向上すれば、賃金の上昇に結びつきます。特にフリー業務を担当し、スポットの仕事が多いドライバーは求貨求車サービスを活用して常に仕事を確保してもらいたいと願うでしょう。


反対に固定給制度の時間給で働くドライバーは、賃金が変わらぬまま帰り荷や積合わせ業務が増え、慣れない荷主の仕事が増えるため、不満を感じるかもしれません。

本来は通常業務(既存荷主の仕事)の運賃単価が上がり、手取り収入が増えるほうが望ましいと思うでしょう。


一方、軽トラックの個人ドライバーの場合は、求貨求車情報の恩恵をより強く感じるようになるでしょう。

現在、オンラインショッピングの進展により宅配荷物が急増しており、小口の宅配業務は個人ドライバーに依存するウェイトがますます高まる見込みです。

個人ドライバーは求貨求車情報により荷物情報をリアルタイムで入手することが出来るため、業務効率が高まり、手取り収入の増加につながります。

求貨求車サービスが今後どのように発展していくのか注目されます。