第十七話.岡野、屋号を付ける。

 凄い剣幕で怒鳴られたが、こっちは元不良の端くれ!
 怒鳴られたぐらいで引っ込むようなヤワな根性はしていない。

「突然すみません! 仕事下さい!」
「何言ってんだてめぇ、なんでうちの会社知ってんだ!」

 なんでって……。たまたまトラックで通りかかっただけなんだが。

 「家近いんで!」
 「あぁん!? どうせニュース見て来たんだろう!」

 ――ニュース?
 なんかあったのか。

「ずっと運転してたんでニュース見てません! トラック乗ったまま来てるんで! ……なんかあったんっスか?」
「なんだ。ほんとに知らないで来たのかよ……」

 後で判った事だが、その日の午前中、その会社が追突事故を起こしていたらしく、その報道が流れていたらしい。
 報道陣やら野次馬やらに詰めかけられて、ピリピリしていたのだそうだ。
 そんなことは全く知らない俺、きょとんと首を傾げると、おっさんはジロッと俺を眺めて、フン、と息を吐き出した。

「……まぁ、いいや。丁度明日走る予定のドライバーがたまたまいねぇんだよ。仕事やるわ」

 ――ッしゃ!

「あざーっす! あ、俺こーいうモンです!」

 俺はホクホクしながら自分の名前の入った名刺を差し出した。
 おっさんは名刺を受け取ると表、裏っとくるくる名刺をひっくり返して、訝し気な視線を俺に向けてくる。

「……岡野照彦? ……お前これ名前だけじゃねぇか。屋号は?」

 ……や……屋号……。
 屋号、屋号。頭の中で、前の小さな運送会社の名前がぽんっと浮かぶ。
 社長の名前の「豊」。豊の未来が明るい、で、豊明物流。
 なら、俺の会社も、それで行くか。
 照彦が栄える。【照栄物流しょうえいぶつりゅう】。
 これだ!!

「……しょ、照栄物流です!! その、名刺はまだ出来てなくて!」
「照栄物流ね。……トラックってこれか? お前これ白ナンバーじゃねぇか」
「や! ほら! 緑よか白い方が清潔感あるじゃないっすか!」
「オイ」

 何言ってんだこいつって目で見られた。
 ダメ?

「あー、まぁ、なんだ。緑ナンバーは取っとけ? 仕事欲しいんだろ?」
「……ハイ」
「まぁ、うちも車無くて困ってたから仕事はやるけどさ。従業員は? お前一人か?」
「あ、大丈夫っす! 居ます! うちの会社、五~六人の仲間ってか、従業員いるんで! 自分行けなくても他のメンバーが対応するんで大丈夫っす!」

 堂々と大嘘ついた。
 どんだけ仕事が来ても全部こなしてやる。
 こいつに任せれば安心だという信用が欲しかった。

  翌日、早速仕事に取り掛かる。行き先は大井。倉庫に荷物を引き取りに行く仕事だった。
 トラックを止め、受付に行く。

「すみません、照栄物流です! 荷物引き取りに来ました!」
「はい、少々お待ちください」

 ……こうやって自分で付けた会社の名前を告げると、ちゃんとした会社って感じだ。
 ソワソワしながら順番を待っていると、受付の女の子に呼ばれた。

「照栄物流さーん」
「ハイッ!」

 会社名で呼ばれてドキッとする。
 差し出された書類には、「照栄物流」の文字が入っていた。

 ――うわぁ……。
 俺、本当に会社を持ったんだ。
 【照栄物流】。
 俺の会社の、名前だ。

 この時、書類に書かれたその文字に、初めて俺は、『自分の会社を持ったんだ』と実感をした。

 

to be continued…


今回も1日更新遅くなりました。ごめんなさい! 
次回更新は10/17を予定しています。 お楽しみに!