第七話.岡野、拳を振るう

 結局、俺は六年生からは、学校に行くのをやめた。
 登校拒否だ。

 地獄のような小学校時代が終わり、中学からは、何かが変わるんじゃないかと期待もしたが、一年通った所で変わるわけもない。

 基本公立の中学校は、小学校の繰上げだ。
 同じ学年、同じ学校の生徒がわんさかいる。
 相変わらず、俺は馬鹿にされ、ひたすら耐える日々が続いた。

 転機が訪れたのは、中学二年に上がる頃だ。
 成長期を迎え、俺の背はぐんぐんと伸び、気づくと身体は他の子よりも、一回り大きくなっていた。

「おい、ばかの!」

 体は大きくなっても、相変わらず馬鹿にしてくるやつはいた。
 何年も馬鹿にされ、虐げられてきた俺は、負けん気は強い方だったが、耐えることに慣れ過ぎていた。
 自分にも、自信が無かった。堪える以外を知らなかった。

 悔しさと苛立ちを覚えつつも、無視をする。
 すると、そいつは俺に突っかかって来た。

「ばかのの癖に無視すんな!」

 どんっと突き飛ばされ、俺の中で何かが切れた。
 何なんだよ!? いい加減にしろよ!? どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むんだ!

 もう嫌だ。やられっぱなしは、もう沢山だ。

「何すんだ!!」

 初めて、そこで俺はイジメッコに立ち向かった。
 立ち向かうのは怖かったが、もう限界だった。

 イジメッコが、ぎょっとした顔をする。

 ぶん殴られた。殴り返した。
 がむしゃらに腕をぶん回した。
 イジメッコの顔が歪む。

 ――なんだ。こいつ、俺よりも小さいじゃん。
 力だって俺より弱い。
 俺の方が、有利に思えた。

 教師がやってきて引きはがされる。

 体のあちこちが痛かったが、俺は気分が高揚していた。

 ――やれるんじゃん。俺。

 胸がどきどきした。
 そうだよ。やられっぱでいる必要がどこにある?
 我慢する必要がどこにある?

 殴られるのは痛い。殴った手も痛い。それでも、心が痛い、みじめな気持ちよりも、ずっと良い。

 まるで解放されたような気分だった。

 やられるだけで、ただひたすら歯を食いしばり、耐えていた俺にとって、それは大きな変化だった。

 それからも、度々喧嘩を売られては、やり返した。
 少しずつ、少しずつ、喧嘩を繰り返すたびに、自分の強さを実感し、それが自信に繋がっていく。

 もう、馬鹿にされてた俺じゃない。
 俺はもう、やられっぱなしじゃない。

 不良と呼ばれる先輩たちとつるみ、制服を着崩し、髪型を変える。
 中学二年。反抗期と共に、俺は不良の道へと走り出した。

to be continued…


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岡野の転機、中学校編突入です!ここから岡野の本領がすこーしずつ発揮されていきます。
次回更新は5/29を予定しています。 お楽しみに!