第213回:令和時代の運送業経営 労務トラブル実例編(9)
【労務トラブル実事例編】⑨
「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウイルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。
今回も前回に続き、運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」と、その対応策について説明してまいります。
1.労務トラブル実事例
⑴トラブル内容
神奈川県の運送会社A社(社員数100人)は建設現場関係の輸送業務を行っており、コロナ禍の影響で売り上げの減少傾向が続いていたが、感染者数の減少と共に現場も動き始め、徐々に業績は回復基調となっていた。しかしながら、同社B社長の気分は晴れない。というのも退職者の未払残業請求者が延べ8人になっていたからであった。
以前の同社の給与制度は運賃の38%を給与総額とするオール歩合給であったが、数年前に労基署に相談し、「最低賃金を基本給でカバーし残額を残業代とする」制度に変更していた。
給与額は変わらないのでドライバーから特に反対は無かったが、ある時現場での暴言と喫煙で荷主からクレームがあったドライバーCを解雇したことを契機に未払残業請求を受けた。B社長は弁護士に依頼せず、自ら先方代理人と交渉し、一定額で和解することができた。しかし、社員Cから情報を聞きつけたドライバーが次々と請求を起こし、延べ8人となった。
B社長としては、やり方がわからかったので労基署に相談し、実施したのだが、請求者が続出し愕然としている状況である。
⑵事例のポイント
本事例の給与制度に関する問題点としては、総額を歩合計算で決め、県最低賃金による基本給を控除し、残額を残業代とする計算方式について、「給与項目上の残業代と実際の残業時間数が連動していない」点が最大の問題点となります。例えば、ある月に残業が70時間で給与が38万(運賃収入100万×38%)であった場合に、残業代は基本給17万を差し引き21万、翌月に残業75時間で給与が36.1万(運賃収入95万×38%)、基本給17万、残業代19.1万となり、「残業代と残業時間数が連動していない、時間連動していない残業代は残業代とは言えない」という主張をされてしまうこととなります。また、基本給17万、残業代21万だと、残業代21万はおおむね168時間分(21万÷(17万÷170(月所定労働時間)×125%)となり、現状の過労死ライン月残業時間数80Hを大幅に超過しており「公序良俗に反する給与制度である」という主張を受ける根拠になってしまっています。
B社長としては、労基署に相談し実施した給与制度について残業請求を受けることは「納得できない」というのが率直な気持ちであるでしょう。しかしながら、係争になると労基署の指導ということは正当性の根拠にはなりません。
2.対応策
このような事態を避けるため、残業代は「残業時間数と連動させる」ことが必要です。残業時間数はアルコールチェック機器で出庫、帰庫の時刻を記録し、デジタコで把握した休憩時間数を控除し労働時間を確定、日及び週の法定(所定)労働時間を超過した時間を「時間外時間数」とし、その時間数に連動して残業代を計算することが必要です。
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