ナットは緩むもの? 後絶たぬ車輪脱落を考える
大型車の車輪脱落事故が多発する時期が迫っている。ホイールがスチールだと100kg、アルミでも80kgほどになる塊が目の前に…そんな事故が昨年度、全国で過去最多を更新(140件)した。国交省のまとめでは、そのうちの93件が11月~翌年2月に発生。また、左後輪が外れるケースが全体の94%を占めており、かねて事故原因の可能性を指摘される「左側走行の日本に合わないISO規格のホイール締め付け方式」が頭をよぎる。適切な増し締めを求めることと合わせ、「なぜボルト・ナットは緩むのか」という問題を知らせることも事故防止には重要だ。
●変更から13年
国交省は整備管理者制度の運用に関する通達を改正し、10月からは整管者にタイヤの脱着や増し締めなどの保守管理の徹底を求め、違法な状態で事故を起こせば運送事業者の行政処分と合わせて整管者の解任が命じられる。小規模な営業所では日常のタイヤ管理をドライバー任せにしているケースもあり、まずはドライバーへの意識付けが必要となる。
岡山県にある山陽道・吉備SA(上り線)で10月4日、車輪脱落事故を対象にした街頭検査が行われた。岡山運輸支局が県警察本部や自動車技術総合機構、ネクスコ西日本などの協力を得て実施したもので、51台の大型車のナットの緩みなどをチェックした。
同支局の森下賢二・首席陸運技術専門官は「令和4年度に起きた140件のうち中国運輸局管内は7件と多くないが、3件が岡山」と、県内で初めてタイヤに特化した街頭検査に至った経緯を説明。ハンマーを持った担当官がナットを叩いて確認していたが、同日の検査で緩みは見つからなかった。脱落事故が11月~翌年2月に集中することを踏まえれば、検査時期が少し早かった感もある。
トラック事業者や整管者、ドライバーら大型車両の関係者に向けてタイヤ周りの管理徹底の呼び掛けが重ねられる。ただ、そうした場面で「日本の道路事情に合わないISO方式」のリスクが啓発される光景を見ることは少ない。
●草刈機を例に
これまで本紙でも触れてきたJIS、ISOの2つの規格の違い。タイヤの回転方向とネジの緩む向きが反対としてきたJIS(日本産業規格)方式が、総輪に右ネジを採用する国際標準化機構の定めるISO方式に変わって13年。
岡山県北部のトラック経営者は「田んぼの手入れをするドライバーも多く『いまのホイールは、使うほどネジが緩んで刃が飛びかねない草刈り機みたいなもの』…そんなふうに話す」と苦笑する。トラックタイヤを販売する兵庫県の会社幹部も「扇風機と同じ。緩みの具合がわからないからナットキャップを付けないでほしい」と話す。
規格の変更で生じたリスクはネジを締める方向の違いだけではないという。「例えば、JIS方式ではダブルタイヤにインナー・アウターの2つのナットが備わっていたこと、さらにその両方がテーパー形状で食い込むようになっていたが、それら安全配慮の規格が変わってしまった」とタイヤ販社の関係者。
車輪の脱落防止には日常点検や、定期的なメンテナンスが大切なのは間違いないが、実際にハンドルを握って大型車を走らせるドライバーがリスクを理解しているかという問題。人手不足も手伝い、トラック運送の現場には「オイル量さえ確認しない素人が増えた」(兵庫県姫路市の運送事業者)という現実。整管者の責任を強化するのと合わせ、「ナットは緩む」ことをドライバーに意識付ける啓発活動も求められる。
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