「ドライバーがトラックに乗り込んで最初にやるのは(運転席周りの)オフスイッチを押すこと」と雑貨を運ぶ岡山県のトラック経営者は話す。慣れた手つきでアイドリングストップ機能や車線逸脱を知らせる装置、衝突被害軽減ブレーキなどが作動しないようにするという。電子制御の装置類が充実してトラックの価格が高くなる一方で、そうした機能を現場のドライバーらが拒絶してしまう光景に何か釈然としない思いもある。

「どうせ切るから必要ないのになぁ」と、注文していた1500㏄のライトバンが届いた際に、以前からアイドリングストップ装置に自分自身も不便を感じていた前出の社長がつぶやくと、それを聞いたディーラーの担当者は「それなら次から取り外します」とさらり。標準装備と思っていたものが、それで1台当たり5万円以上の値引きになったという。

トラック運送の経営者に「不要な装置」を尋ねると、圧倒的だったのは排ガス微粒子除去フィルター(DPF)だったが、「車に悪影響」との理由でアイドリングストップ装置が2番手。トラックの場合は大型車にもアイドリングストップ機能を備えるケースもあれば、4トン以下が対象などさまざま。あるメーカー系の販社幹部によれば「エンジンを止めることができない直結式が主流のため、4トン車についてはアイドリングストップ機能が選べる」と話す。

一方、「ガードレールに反応して荷崩れ事故が起きた」という事業者から自動ブレーキの問題を指摘する声も聞かれたが、「ドライバーを守るもの」「標準装備は時代を反映している」と、車体価格が高くなっても安全装置は必要とする意見が目立つ。「ピーピー音がうるさい」とドライバーに不評な車線逸脱警報装置や、はみ出しから元の車線に戻そうとする機能も「万一の居眠りから命を守ってくれる」と、外せない標準装備と捉える社長が少なくない。

ところで、定期点検の際に大型車のホイール・ナットを規定トルクで締め付けるルールが設けられた2007年4月以降、トラック事業者のコスト負担が増えたのは周知の通り。それを踏まえれば、3年後に始まるOBD(車載式故障診断装置)車検もおそらく自動車ユーザーに負担を強いるはず。

車体に備わったカプラー(OBDポート)にスキャンツールを接続し、安全装置などが正常に作動しているかをチェックするもの。今年10月以降に発売された車両を対象に2024年10月(外車は1年遅れ)から始まるが、冒頭のようにドライバーがスイッチをオフにした場合はどうなるのだろう。

かつてトラックの業界団体が独自に、できるだけ軽量化した車両を作ったことがあった。「4トン車に4トンの貨物が積めるように」という架装減トン問題と向き合い、不要な装備を取り外して車体を軽量化。その分だけ最大積載量を増やそうという取り組みだったと記憶している。

全ト協に聞くと、そうした事実があったことは確認できたものの「20年も前のことなので詳細を知る職員も、資料もない」と広報の担当者。一方、地方ト協のなかには「当地にやって来た実物を見たのを覚えている」「窓の開閉が手動などドライバーに不評で、結果的に1台で終わった気がする」「4トン車に4トンを積みたい…その思いがうまく伝わらず、中型免許のきっかけになってしまった」と当時を思い出す古参の職員らもいた。

車内で過ごす時間が長い職業ドライバーが、エンジンをかけるたびにスイッチオフを繰り返す光景。費用対効果を考えると、軽油や高速料金などと同じく単に外的コストが増えたように映る。時代が求める最新装備の要否を問うのはナンセンスだが、「仕事で使う車両は必要最低限の装備で、とにかく安く」という選択肢があっていいのではとも思う。