娘から「ドライバーはかっこよくない仕事」と言われ 運送業の立ち位置実感

「ドライバーの小学生の娘が不登校になったため、会社に連れてきて自分が働いている様子を見学させてほしいと頼まれた」ーー。
大阪市住之江区の運送会社社長は、この出来事をきっかけに、「運送業のイメージ向上の必要性を感じた」と話す。
同社長によると、「ドライバーの娘は、父親の仕事を誇りに思っていて、親の仕事について発表する授業で、トラックドライバーをしている父親のことを自信満々で発表した。しかし、同級生たちから、『トラックドライバーは運転免許があれば誰でもできる』や『底辺の仕事』などと言われたことでショックを受け、不登校気味になってしまったようだ」と説明。
「そこで、『娘に仕事の様子を見せてあげたい』ということで、会社に見学に来た。頑張っている父親を見て尊敬し直すかと思いきや、娘は『かっこよくない仕事』と言い放った」という。
同社長は、「お店などに商品を運んでいる大切な仕事、お店の人たちを笑顔にして『ありがとう』と言ってもらえる、目立たないがかっこいい仕事と説明すると、娘も納得していた」。
「その後、学校にも事情を説明し、娘本人も学校に行くようになってから、『笑顔とありがとうと言ってもらう仕事』についての授業があり、運送業だけでなく、『底辺と呼ばれるような仕事はない』という理解が深まったと聞いている」。
同社長は「トラックドライバーたちが自身の仕事を話して尊敬される、理解してもらえる世の中にするのも運送会社の使命だと思う」とし、「イメージアップやかっこいい仕事と言ってもらえるようにしていきたい」と語る。
【記者の目】極めてプロフェッショナルな職業 ドライバーのやりがいとは
近年、「エッセンシャルワーカー」と呼ばれ、働き方改革も急速に進んでいるものの、トラックドライバーの人気はいまだに高くない。「免許があれば誰でもできる」「長時間労働・低賃金」などと低く見られる風潮も一部で残っている。しかし、トラック業界を見てきた記者からすれば「極めてプロフェッショナルで、やりがいの多い職業」だと断言できる。
まず、「プロフェッショナル」という点。免許制度の度重なる変更によって、現在は普通免許を取得しても「営業用のトラックの多くは乗れない」状況だ。少子化や免許取得人口の減少に加え、自費で準中型、中型、大型などの免許を取りに行く人は限られることを考えると、トラックドライバーは極めて限られた人しかできない「専門職」にすでになっている。また、この希少性は高まる一方だ。プロドライバーの「プロ」の部分の価値は今後も間違いなく増していき、むしろ「誰でもできない」職業へと変わっていくはずだ。
「やりがい」という点では、「大きな車を運転し、顧客が必要とする荷物を運ぶ」ということが単純かつ大きな魅力に映り、「車(トラック)が好き、運転が好き、あちこちに行くのが好き」という人には非常に向いている職業だ。ただ、本当の魅力はもっと深いところにあるように感じる。実際に私たちの身の回りにあるほとんどすべてのモノは、トラックによって運ばれ、ドライバーがいなければ社会生活や経済活動がストップする。国民生活や産業の基盤を支える仕事であり、「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる所以だ。
確かに目立つ派手な仕事ではないかもしれないが、トラックドライバーが荷物を運ぶその先には「子どもがお菓子を喜んで食べる」「家族団らんで食卓を囲む」「病気を治すために薬を飲む」「実家から荷物が届く」「スポーツ観戦やコンサートを楽しむ」「道路工事や市街地の開発をする」など、誰かの幸せがある。トラックドライバーの仕事は、荷物を運ぶことを通じて、多くの人の生活を支え、幸せを提供している。こういった点に誇りを感じることができる人なら、トラックドライバーはとても魅力があるものではないか。
また、「確実に感謝される職業」であるともいえる。受注してからサービスを提供するので、嫌がられることはあり得ない。自社の都合を優先して強引に売りつけたりすることもない。「望む人に望むサービスを提供」し、そのサービスがなければ顧客は生活やビジネスに支障が出るため、100%感謝される。その分、大きな責任を伴っている。
トラックドライバーは、日本の物流の中核を担っており、ドライバーが運ばなければ、ほとんどの人は日常的な生活は送れず、企業も経済活動を行うことができない。トラックドライバーは、すべての国民、企業活動を支えている非常に重要かつ魅力的で、プロフェッショナルな職業だ、と改めて訴えたい。