トラック運送業界では20年ほど前から、実運送事業者が適正な運賃を確保できない「多重下請け構造」には問題があると言われてきた。全ト協は是正に向けた方策を検討する上で、問題点を「多重下請け構造のあり方に関する提言」で取りまとめており、なかでも、無責任で悪質な水屋(利用運送専業者・取次事業者)や求荷・求車サイトへの対策を重視すべきだとしている。

 

全ト協では昨年10月に坂本克己会長の諮問機関として検討会を設置、今年3月に提言を取りまとめた。それを参考に、国交省は8月23日に是正に向けた「トラック運送業における多重下請け構造検討会」(第1回)を開催した。

 

そもそも多重下請け構造についてはこれまでも問題提起がなされてきたが、その実態を把握できず対策が見いだせていなかった。全ト協も提言で問題点を挙げているが、具体的な対策については、「これから検討する」という状況だ。

全ト協は、是正で重視している水屋や求荷・求車サイトについて、「トラック運送業界にとって必要がないわけでは決してないが、輸送に関しての無責任さ、明確な運行指示のない単なる横流しなどの実態があるため、何らかの規制をすべき」としている。

 

さらに、「多くの車両情報を持つ水屋が、実運送事業者の採算を度外視した車両の確保を行うことは問題。水屋は元請け運送事業者と同様に、依頼元の運送事業者などから運賃とは別に利用運送手数料を確保し、実運送事業者に適正な運賃を支払うべきで、国交省はチェックする仕組みを設けるべき」としている。

求荷・求車サイトについても、「標準的な運賃を大幅に下回り、採算がとれない水準の運賃はサイトに載せないよう厳しく規制すべきで、著しく低い運賃を掲示している利用者はトラックGメンによる監視・監査で是正指導の対象にすべき」としている。

 

 

国交省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員を務めた小野塚征志氏(ローランド・ベルガー)は、トラック運送業の多重下請け構造について、「経済的には『ムダなコスト』で、ない方が良い」とし、「解消に向けて政府が取り組むべきことは、米国と同様に再委託を禁じる法律を作ることだが、日本の法体系では難しい。それゆえ、貨物自動車運送事業法を改正し、孫請けやひ孫請けに委託すると手間が掛かるようにしている」と説明する。

 

同氏は、「元請けが最初から現場の運送会社に委託しないのは、空いているトラックを探す作業を下請けに任せたいからで、多重下請け構造の解消には、『空いているトラックを見つけられる仕組み』が必要」と指摘。「水屋の存在は否定しないが、実運送事業者に適正な運賃を支払う必要がある。実際には、他社の運送依頼を水屋が受注し、その受注価格よりも高い価格で掲示板に載せるといった不適正な利用が横行しており、水屋が『転売屋』になっている」

 

同氏は、「求荷・求車サイトも不適正な利用を規制するべきだが、証券市場のように転売できない仕組みになれば、マッチングサイトこそが多重下請け構造を破壊する『空いているトラックを見つけられる仕組み』になるかもしれない」と説明。「適切な実運送事業者を簡単に見つけられるようになれば、多重下請け構造は解消される。運送事業者の配車計画がデジタル化されて、それが相互につながるようになれば、空いているトラックをデジタルで見つけられるようになり、多重下請け構造はなくなる」としている。

 

◎関連リンク→ 全日本トラック協会 多重下請構造のあり方に関する提言について