脳・心臓疾患 運送業がワースト1位、増える脳ドック導入企業
運送業を経営する上で、ドライバーの健康維持は重要なテーマ。ドライバーの高齢化が進む中、悩みを抱える経営者も少なくない。厚労省が発表している「過労死等の労災補償状況」の脳・心臓疾患に関する事案の労災請求件数は、過去10年以上にわたって運輸業が最多となっている。運送事業者は、この課題にどう備えるべきか−−。今回は脳疾患への対応について取材した。
茨城乳配 脳ドック検査制度導入、家族への安心感も
食品専門の配送を手掛ける茨城乳配(吉川国之社長、茨城県水戸市)では2年前から、40歳以上のドライバーを対象に「脳ドック検査制度」を導入。「運転中に脳疾患の症状が現れると意識を失い、重大事故につながってしまう。危険を排除するとともに、従業員の安全と健康を守り、その家族への安心感も提供したい」という吉川社長の思いから始めた同制度。「各営業所から年齢の高い順に毎年5人ずつ、この2年で50人が受診した」とし、「各営業所の管轄ト協の補助を申請し、利用している」
「命に関わる異変が見つかった社員は今のところいないが、良性腫瘍や動脈硬化によるごく軽度の病変は数人いた。幸い手術の必要はなく、経過観察となっている」という。「多くの社員は『一切問題なし』。楽観視するわけではないが、周りからは見えず初期症状も少ない脳疾患のリスクに対して、良い意味で安心感が出た」と胸をなで下ろす。
脳ドックについて吉川社長は、「脳疾患は具体的に対策することが難しかったが、脳の状況を見せながら専門医が説明してくれるのは会社として非常に安心」とし、「食生活についての指導や助言もあり、社員の健康への意識向上につながっている」と評価する。
また、「クルー(ドライバー)からは、『今まで不安だったが異常がなくて安心した』『個人では受診しづらかった』『生活習慣に気を付けながらドライバーを続けていきたい』といった感想が寄せられている」とし、「『社員の健康に対する会社の姿勢が感じられた』との声もあり、会社と社員間の関係性の強化にもつながっている」と副次的な効果を実感しているという。
同社長は、「脳疾患はどうしても年齢によって発症リスクが上がってしまう。事故が起きれば会社に多額の損失が出るのはもちろんだが、多くの場合で脳疾患は後遺症が残るとされており、発症してしまえば、その社員は生活の糧を失う」と警鐘を鳴らし、「安全・安心を買うという意味でも、脳ドックはお勧めしたい」と語る。
飯尾運輸 上限3万円まで診断費用を補助
飯尾運輸(兵庫県川西市)では、2022年度から従業員の脳ドック費用を助成。対象は40歳以上で、脳MRI・MRAの自費診療にかかる費用を上限3万円まで補助している。
同社担当者は、「初年度は10人が受診した。費用の2分の1を負担してくれるト協の制度も活用しているが助成額と人数に上限があり会社の負担は大きい」としながらも、「事故防止と従業員の健康のため、希望者全員に受診してもらっている」という。
行政書士の阪本浩毅氏「受診ルールの明確化を」
行政書士の阪本浩毅氏(行政書士法人シグマ、東京都新宿区)は、「脳健診の受診を円滑に進めるためには『脳血管疾患取扱規定』を定めるなど、受診ルールを明確化した方が良い」とアドバイス。「ルールの明確化は、運転者の不安や危惧を取り除く効果もある」とし、「目的を周知できることに加え、健診後のフォローや乗務可否、治療の継続的なチェックなど、一連の対応がフェアかつスムーズに進めることができる」
なお、「脳健診の結果の把握は法定の定期健康診断と異なり運転者の同意が必要なため、結果報告への同意を得ておくべき」とも。「その際は、報告させる目的や情報を共有する人の範囲、漏洩防止に努めるなど情報管理の徹底を運転者に対して十分に説明することが重要になる」
阪本氏は、「できるだけ多くの運転者が受診することが望ましいが、全員を受診させることが困難な場合は、リスクが高い運転者を優先してほしい」と提案。「必要性が最も高いのは『中・高齢者』で、なかでも、脳血管疾患の家族歴・高血圧・過度の飲酒・喫煙・糖尿病・脂質異常症・肥満・メタボリックシンドロームといった危険因子に該当する運転者」
また、「中・高齢者でなくてもこれらの危険因子に該当する運転者は受診を検討した方が良く、特に、複数に該当する運転者や個々の危険因子の程度が高い運転者も、優先的に進めた方が良い」という。
なお、「対象外の運転者も、定期健康診断で危険因子に該当していないかの確認を毎年行ってほしい」と付け加える。
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