大学卒業とともに住友ゴム工業(神戸市中央区)に入社、営業本部に配属され、営業畑を歩む一方、マーケティングや商品開発にも携わった。そして、2019年3月、社長に就任、以降同社の先頭に立ってかじ取りを担ってきた。三十数年前、イギリスで、タイヤの空気圧をソフトウェアで感知する技術を目の当たりにし、衝撃を受けた。その技術が応用され、いまの同社をけん引する最先端のセンシングコアという新しい技術につながっていることを感慨深く話す山本悟社長。「運送業界は規制などが厳しく、コストに対する意識が高まるなかで、私どもとしては、エコスマートプランといったトータルタイヤ管理のところでお役に立てれば」と話している。

 

入社して間もなく社内に新しくできた商品開発室でマーケティングに携わったという山本社長、国内だけでなく、アメリカやヨーロッパなど、グローバルなタイヤの商品開発を手掛けたという。

 

営業本部時代には、生産財であるトラックのタイヤにも携わった。トラックは商売道具であるだけに、ユーザーである運送事業者の目は厳しい。「タイヤ目線でいろいろと話が聞けて、とても勉強になった」と振り返る。

 

トラックには2003年、同社初となる低燃費タイヤ「エコルトSP668」を発売、以降改良を加えながら「エナセーブSP688Ace」など、新製品を次々と投入している。

 

タイヤ性能も向上しており、同社独自のゴム技術「アクティブトレッド」の乗用車での実用化も成功の見通しだ。同社長によると、タイヤは雨や雪に弱いが、この技術は、そんな弱点を克服しているという。

 

例えば、ゴムは冷やされると固まる性質があるが、同技術では逆に柔らかくなるのだという。雨や雪を感じ柔らかくなる一方、晴れると固くなる。路面の性質に合わせてタイヤが変化するという技術だ。

 

運送業界ではオールシーズン対応のMIXタイヤがあるが、アクティブトレッドの技術は、MIXを凌駕するものだと、同社長も自負する。

 

雪の少ない地域などでは、これがあれば履き替える必要はなく、オールシーズン可能となる。「スタッドレスタイヤを準備する必要はなくなり、コスト抑制につながる」と同社長は指摘する。

 

一方、同社ではタイヤの安全という点にも力を入れており、現在、空気圧センサーを装着して常時タイヤのコンディションを把握するTPMS(タイヤ内圧警報装置)を開発、今後本格的な普及促進を図っていくという。

 

今月には、ロジスティードと実証実験も行っている。

 

さらにその先には、同社長自身、イギリスで見た技術から三十数年の時を経て開発にこぎつけた技術「センシングコア」の導入を計画している。

 

センシングコアは、センサーを使うことなく、タイヤの空気圧・摩耗・荷重・路面状況、車輪脱落予兆検知などのタイヤ情報を提供することが可能な技術だ。近年問題となっている車輪脱落の予兆も検知可能になることから、大きな期待が寄せられているという。

 

同社長によると、今年秋にも北米での実用化が始まるという。乗用車でスタートするが、その先には、国内の全車両への対応も視野に入れて進めていくとしている。

 

「安全と環境はもはや避けては通れない」と同社長が指摘するように、安全と同様に注力するのが環境だ。

 

タイヤの製造における材料について、菜の花やとうもろこしといったバイオマス原材料と廃タイヤや廃プラスチックといったリサイクル原材料など、サスティナブル原材料の比率を2030年に40%とし、さらにその20年後の2050年には100%とする計画だ。

 

今年の総会で、日本自動車タイヤ協会(JATMA)の会長にも就任した山本社長は、「環境と安全への取り組みは最重要施策」とした上で、「環境に配慮しながら、低コストで安全を考慮したタイヤサービスを提供していきたい」と話している。

 

◎関連リンク→ 住友ゴム工業株式会社