日東物流 菅原拓也社長 無駄を省いて体質強化
「課題に直面した時、できないではなく、どうしたらできるか前向きに考え、取り組むことができるのが当社の強み」と話すのは、関東エリアで冷蔵・冷凍輸送を手掛ける日東物流(千葉県四街道市)の菅原拓也社長。
同社は菅原社長の父親である先代が設立、今期で第27期目を迎えている。菅原社長は、13年前の2008年4月に同社に入社した。
大学3年になって、進路を考えていた同社長は、先代に対し、同社に入社し、家業を継ぐことを打ち明ける。
しかし、父親はその打ち明けを拒んだ。自分の子供が後を継いでくれる。本来嬉しいはずなのだが。その理由について、同社長は、「長年運送会社を経営してきた中で、孤独、そして毎日事故にびくびくしながら過ごす苦労を私にさせたくなかったのだと思う」と説明する。
それでも同社長は、いずれ同社に入社することを視野に、経験を積める物流業界に就職する。西濃運輸、そして国分ロジスティクスで物流の経験を積んだ同社長は、2008年4月に同社に入社する。
入社した当時は、ドライバーの平均賃金も高く、デジタコ導入も進んでおり、周囲からみれば何の問題もない会社にみえた。
しかし、実際の中身はというと、労働時間は長く、社会保険未加入者も点在するなど、コンプライアンスの徹底には程遠かった。「293時間を守るのは夢のまた夢だった」と、同社長は当時を振り返る。
しかし、そんな同社に緊急事態が発生する。事故をきっかけに国交省による監査が入り、その結果、3日間の営業停止処分を受けたのだ。
こんなだましだましの運営ではいずれ立ちいかなくなる。同社長は危機感を抱き、法令順守の必要性を訴えた。だが、現場からは、「できるわけがない」「そんな甘くはない」「机上の空論だ」との反発の声が上がった。
何より先代が現場中心であったため、同社長は現場の声を聞く先代と真っ向から対立することになる。
考え方が真逆で、歩み寄りもなく、お互いに口を聞かないという冷戦状態が続いた。
将来、自分が事業を継承する中で、「グレーな部分を飲み込んでまで経営は続けられない」。社長の意志は固く決して折れなかった。
グレーを白にするにはどうすればいいか。法令順守で掛かるコストをどう捻出するか。利益を下げて取り組めば、先代はまず認めない。道は、利益を上げながらコンプライアンスの徹底を図るしかなかった。
同社は、自社の無理や無駄を省く一方、荷主との運賃交渉も敢行した。当時売り上げの約20%を占める荷主との交渉では何度も躓いた。仕事を失うリスクもあったが、粘り強く提案、交渉を続けた結果、最終的に荷主が理解を示し、値上げに応じてくれた。
こうした取り組みで余剰資金を確保しながら法令順守への投資を繰り返した。
社会保険への全員加入はもとより、健康診断の実施では、夜勤者に血液検査まで実施することを決めた。さらに、最も難しいとされていた労働時間にも手を付け、サービス残業を辞めて、帰れるときは早く帰るように周知徹底を図る。さらに、有休取得を推奨、週休2日制にも取り組む一方、配車の見直しを行い、長時間労働になるような配車を排除していった。
会社が変わっていくのが分かるようになると、社内で同社長への理解者も増えていった。当初反対していた経営幹部らも社長の考えに賛同、不満の声は徐々に聞かれなくなっていった。
はっきりと結果が表れてくると、会社は自然と勢いを増す。プラスの方向へと向かう力が強くなる。従業員の禁煙促進など健康経営も進み、2018年に物流会社として千葉県で初めて「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定を取得すると、以降4年連続で認定を受けている。
そして今年、「健康経営優良法人」のうち、上位500法人のみが選ばれる〝ブライト500〟にも選出された。
経営に対する考え方で衝突していた先代も会社の変化を感じ、口を出さずに見守るようになり、2017年9月、社長を継承しバトンタッチを行うと、自らすべての役を下り、同社を引退した。
入社当初、可能性はほぼゼロで夢のまた夢だった労働時間の順守は、現在、全員が293時間内に収まるようになり、次なる目標270時間に向けて、取り組みが進められている。
売り上げは12億円から11億円と1億円を減らしたが、しかし、利益は逆に上がり、経常利益は6%台をキープできているという。
無駄をそり落として体質強化が図れたという同社は今後、対外的にも積極的に営業展開を行っていくとしており、同社長は、「コンプライアンス徹底を図りながら、売り上げを15億円、そして経常利益10%を当面の目標として取り組んでいく」とする一方、「管理職には、年収1000万円を超える給与を支給したい」と話し、「運送業は魅力のある業界」ということを実践していく考えだ。
◎関連リンク→ 株式会社日東物流
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