「噂で耳にしていたが、入っていないドライバーが本当にいるとは…恐ろしくなる」と岡山市のトラック経営者。マイカー通勤で社内規程を設けている同氏の会社では十数年前から、「運転免許証と車検証、大まかな通勤経路図のほか、加入の有無は個人の判断に委ねられる商品であるものの自動車保険(任意保険)の証券のコピーも加えた4つを提出させてきた。「久しぶりに20歳代が来てくれたと喜んだが採用には至らなかった。年齢で割高感がある掛け金の負担は大きいかもしれないが、未加入の状態でハンドルを握れてしまう人材は使えない」と話す。

インターネットメディアによるアンケート調査で数年前、20歳代のドライバーの3分の1が自動車保険に入っていないという衝撃的な結果が話題になったが、さらに恐ろしい話もある。「自賠責保険(強制保険)も払っていない自動車や原付きが、そこそこ走っているのは確かだ」と警察OB。

 

同OBによれば「交通事故や職質(職務質問)で発覚するケースが少なくないが、飲酒と同じで逃げようとする」とのこと。車のフロントガラスや、バイクの場合はナンバープレートに貼られた車検ステッカーで違反の可能性を判断することも多いという。

 

こうした自賠責未加入(車検切れ)のような法違反は問題外として、任意となる自動車保険の未加入は厄介。冒頭の社長のように「営業車のドライバーになろうというなら、やはり加入してほしい」として、会社の求めに応じない場合は採用を見送ることでリスク回避を選ぶ思いも理解できる。

 

また、同社ほど厳格ではないが、「車検証や自動車保険のコピーを出さない場合でもマイカー通勤を禁止しないが、営業所への乗り入れを認めず、自分で周辺に車庫を借りるように決めている」(同市内の事業者)という“変化球”で対応するケースもある。ルール化する際に内勤者1人とドライバー2人が入っていなかったらしいが、文句は出なかったという。ちなみに同社では、危険を避けるために原付き通勤も認めていないという。

 

かつて広島市の運送会社を訪ねた際に、「交通違反の反則金が未納で継続車検を受けられないのに、そのまま会社に乗ってくる同僚がいた」という内緒話をドライバーから教わった。一発で免許停止の信じられない状況だが、そう考えると、たとえ4点のコピー提出をルール化しているとしても、定期的に最新情報を上書きしておかなければ危ない話となる。

 

ところで、自動車保険に加入していない車両(過失大)と事故を起こせばどうなるのか。自賠責は対人賠償に限られるため、結論からいえば被害者が自分の加入する任意保険で自分を助けるしかない。ただ、掛け金が高いことで車両保険を外して契約するドライバーも多く、相手側に支払い能力がなければ壊れた車の修理代は自腹となる。
2022年度における自動車保険の概況(損害保険料率算出機構)によれば、任意保険の普及率の全国平均は対人が75.4%、対物75.5%。自動車検査登録情報協会が発行する資料に基づく車両数およそ8217万5000台が分母になった数字で、自動車共済に加入する車両も含めると普及率は88.7%に伸びるものの、それでも1割強の車両が任意保険に加入していないことになる。

 

大手損保代理店(広島市)の社長は「対人の場合、ある程度は自賠責でカバーできるためにもめることは少ないが、無保険車との物損トラブルは結構ある。基本的に対人は無保険車特約に自動付帯されるが、壊れた車を直すには自分が車両保険に加入していないとダメ。気の毒だが通り魔に遭ったようなもの」と話す。

 

ネットオークションを使った自動車の個人売買や、セルフ給油が当たり前の時代。タイヤの空気圧やオイル量を助言してくれる場所に出入りする機会も減るなか、車検の満期日など車両管理は所有者に委ねられる。通勤用のマイカーでドライバーが事故を起こした場合、労災の問題は別として「会社に責任はない」のかもしれないが、車検・自賠責が切れて任意保険にも未加入だったとして、それでも同じ立場でいられるだろうか。